
旅のレポート「美味ららら紀行」
温泉の蒸気で蒸した温泉まんじゅう発祥の地は、実は熱海にあった?!
- #温泉
- #熱海市
- #伊豆
- #秋
- #冬
- #癒し・滞在
- #菓子・スイーツ
全国的にも有名な温泉地として知られる静岡県熱海市。熱海温泉は、源泉総数が500を超え、約9割が42度以上の高温泉。平均温度も約63度と熱いお湯が湧き出るのが特徴です。
そんな熱海には、温泉の蒸気で蒸した温泉まんじゅう発祥の店と言われるお店「延命堂」があります。ふわっともちっとした皮に包まれた甘〜い餡。温泉地を訪れたらお土産として買い求めたいもののひとつが温泉まんじゅうではないでしょうか。今回は、温泉まんじゅうのルーツを探ります。

高温の温泉が自噴することから生まれた「温泉まんじゅう」。


お店のすぐ横には稲荷神社と、その前には自噴する「延命乃湯」があり、温泉水に触れることができます。店内に入ると、4代目店主・岩下恵子さんと恵子さんのお母さまが出迎えてくれました。
熱海がまだひなびた温泉町であった大正時代初期。「延命堂」の創始者・岩下義雄氏は、自宅の裏庭(現在の栄光熱海中央保育園のあたり)に立ちのぼる湯けむりを見て、熱海に来るお客さまをもてなせればと、温泉の蒸気でまんじゅうを蒸す実演販売を思い立ったといいます。
温泉蒸気で手づくりのまんじゅうを蒸すという手法は、湯治に来た方、観光客にも好評で、あっという間にその手法が広がり、熱海温泉には温泉まんじゅう店が数多く誕生していきました。
「延命堂」で修行し、暖簾分けの形で独立していった職人さんも複数いるとのこと。ちなみに岩下義雄氏は、熱海信用組合(2000年にスルガ銀行と合併)を設立しており、商才があったのだと思われます。昭和に入ってから、今の場所へ移店しました。

晩年、熱海市に移り住んでいた坪内逍遥も、この「延命堂」の温泉まんじゅうを好んで食べていたといいます。宮家縁の方や多くの著名人からも愛され、全国の温泉まんじゅうのお店の中でも、名の知れたお店と言っても過言ではないでしょう。
ホームページもないけれど全国から電話注文が殺到! 1日3000個を手作業でつくる。

1日に3000個ほどをつくっている「延命堂」の温泉まんじゅうは、保存料不使用。その製法について教えていただきました。
北海道十勝産あずきや伊豆大島産天然海塩、砂糖を使ってつくる自家製のつぶあんやこしあんに、沖縄県波照間島産黒糖と小麦でつくった生地でくるみ、温泉の蒸気で約10分蒸しあげます。かつてせいろで蒸していましたが、現在はその部分は機械化。 機械化された現在は、温泉蒸気で蒸すことが困難になってしまったのですが、あんと生地に熱海温泉を入れているのは昔のままです。








それからもうひとつ。熱海にはいくつか水源がありますが、お店があるこの場所には丹那隧道の湧水が使用されており、お水だけいただいても、非常にまろやか。これもまんじゅうのおいしさの決め手になっているのではないかと考えられます。
インターネット販売どころか、ホームページやSNSも持たないという「延命堂」ですが、東京や大阪などの企業からも大切なときのお祝いやお礼として注文が入るとのこと。入学式などのお祝いのイベントには「祝」などの焼印入り紅白まんじゅうの大量注文が入るそうです。そんな大量の注文も、熟練の職人1人と、恵子さん、そしてお母さまの3人中心に、店の信念を大切に想う従業員とともに、丁寧に対応します。企業のロゴの焼印を入れることもでき、メディアなどでよく名前を見かけるような名の知られた企業のロゴ焼印が並んでいました。
「特に宣伝をしているわけではないんですが、口コミでご紹介いただいているのか、注文の電話がかかってくるんですよ」と恵子さんは笑います。

「1個から販売しているので、町歩きの途中にお立ち寄りいただき、旅の思い出になってもらえればなと思っています。結婚式や成人式など大事なイベントで使っていただけるのはありがたいですね。どんなに忙しくても、一つひとつ、心を込めて丁寧につくっています。お客さまとお話ししたり、喜ぶ笑顔を見られるのが励みになっています」。
「亡くなったおばあちゃんが延命堂のおまんじゅうを好きだったから、棺に入れてあげたい」というお孫さんがいらっしゃったことも。本当に多くの方から愛されていることがわかります。
“温泉蒸気で蒸した温泉まんじゅう発祥のお店”だから買いに来たのではなく、“延命堂のおまんじゅう”だから買いに来たという方が多いのです。

緑茶はもちろん、コーヒーや辛口の日本酒と組み合わせてもおいしい。


「延命堂」の温泉まんじゅうは、JR熱海駅でも購入することができます。熱海観光の旅のお土産に、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょう。
延命堂
住所 | 静岡県熱海市上宿町3-28 |
電話 | 0557-81-2246 |
人工的に噴出する間欠泉「大湯間欠泉」を訪ねよう。

熱海温泉の歴史は古く、749年に箱根権現・万巻上人が漁民や魚介類を救おうと薬師如来に祈祷し、海中温泉の泉脈を熱海に移したことに由来するそう。江戸時代には徳川家康公も熱海温泉に湯治のために訪れ、江戸城に熱海温泉の湯を運ばせていたという記録も残っています。
江戸時代の参勤交代の折には、各地の大名が熱海に立ち寄り、温泉を利用したとも。熱海には多くの文化人が訪れ、明治期には日本で最初の温泉療養センターが設立されるなど、湯治の場所として、全国的に熱海温泉の名は広まっていきました。
熱海市内では自噴、あるいは人工的に噴出する間欠泉をあちらこちらで見ることができます。「延命堂」から徒歩1分のすぐのところにある、熱海七湯のひとつ「大湯間欠泉(おおゆかんけつせん)」にもぜひ訪れてみましょう。
「大湯間欠泉」は、かつて世界の三大間欠泉のひとつに数えられたほど有名な自噴泉だったそう。湯と蒸気が激しい勢いで吹き出し、その様子は地面が揺れるようだったと言われています。関東大震災後に噴出が衰えてしまったため、現在は5分ごとに3分間、湯を人工的に噴出する間欠泉として再整備されています。