ららら紀行

0039
シーズン真っ盛りの浜名湖の幸
ここでしか味わえない「牡蠣」と
東京、京都の名料亭が認める「すっぽん」
#浜名湖  #浜松  #牡蠣  #すっぽん  #舞阪  
浜名湖と言えば「うなぎ」。これはもう誰でも知っている名物だが、遠州灘と繋がる汽水湖・浜名湖にはまだまだ知る人ぞ知るお宝グルメがいろいろある。例えば牡蠣、海苔、ドウマンガニ、すっぽん…。そこで今回は冬が本番の「牡蠣」と「すっぽん」にスポットを当て、その美味しさの秘密を探った。もちろん、ご当地でしか味わえない、とっておきの料理が食べられる店にもおじゃました。


濃厚な味わいと、
肉厚で食べ応えのある身質。
火が入っても縮まない
「浜名湖産牡蠣」




1月某日、日の出前の早朝6時20分、浜名湖の入り口、今切口の船着場から、八木田牡蠣商店の船が浜名湖へと出航。船は浜名湖の北部・庄内湖へと向かい、収穫予定の牡蠣棚に到着。棚の間に船を入れ、身を乗り出して牡蠣がみっしり付いた輪っかを次から次へと船にあげる。あっという間に船は牡蠣でいっぱいになり、その頃には太陽も顔を出した。今回は、舞阪で牡蠣養殖を初めて100余年、大正11年創業の「八木田牡蠣商店」におじゃまし、収穫から洗い、選別、剥き、出荷まで、総勢10人で切り盛りする忙しい一日を取材させていただいた。
 浜名湖の牡蠣養殖の歴史は明治20年頃から始まったとされ、その後多くの人が続き、舞阪には50軒を超える牡蠣養殖業者がいたそうだ。現在は舞阪で8軒、新居で11軒、雄踏、白洲と合わせても24軒。生産量は決して多くないが、浜名湖の牡蠣は味が濃く、肉厚で、火を入れても縮まないと高い評価を得ている。
八木田さんの牡蠣棚は浜名湖の入り口から奥までの間に25カ所点在するそうで、「入り口あたりから、成長に合わせて、プランクトンが豊富な海域へと3回移動させます。9月下旬には川から流れ込む淡水によってプランクトンが特に多い北部へ移動させ、収穫の時を待ちます」。これが浜名湖の牡蠣養殖の大きな特色で、美味しさの秘密でもある。プランクトンをたっぷり食べることで肉厚で濃厚な味わいの牡蠣に育つのだそうだ。


庄内湖の3号牡蠣棚に到着


一つ一つ輪っかを引き揚げていく


「この牡蠣は一昨年の7月下旬に種付けしたもので、
成長までに1年半くらいかかっています」と話す五代目の八木田昇一さん



出航から約1時間半、船着き場に戻り、
輪っかから牡蠣を外し、陸へと上げる作業が始まった



この日の収穫は15かごで、個数にすると
3000~3700個を超える。これが本日の出荷と予約分だ


水揚げした牡蠣は近くの作業場に運び、まずはきれいに洗う。これに要する時間が約2時間。その後一つ一つサイズを選別。これに約3時間。この作業を終えた牡蠣から順次剥き子さんの手に渡り、剥きの作業が始まる。剥き子さんは30~40年のベテランばかりで、一つ剥くのに数秒。見ていて気持ちいいほど、ツルリと剥く。ちなみに朝7時から剥き始め、途中休憩をはさみ、午後3時までかかるそうだ。剥いた牡蠣は水洗いし、もう一度選別。一等品だけを袋詰めし出荷する。


昨年から導入された農業用の野菜洗い機が活躍


サイズをチェックし選別し、空の殻を除去する


ベテラン剥き子さんたちが次から次へと剥いていく


「一粒で得る、幸福感。」がYAGITA OYSTERのコンセプトだそうだ


水洗いして袋詰め

「収穫のタイミングを見極めるのが重要で、身が薄い黄色をしていたら収穫時。白や透明は水分が多すぎでまだ収穫時ではありません」。と見せてくれた剥いたばかりの牡蠣はうっすら黄色でいかにも美味しそうだ。それにしても、浜名湖の牡蠣養殖の仕事はすべてが時間のかかる手作業だということがよくわかった。そしてどの人もその道のプロで、11月末~3月末のシーズンになると集まる地元の人。「地元の人の協力があってのことです」と八木田さんは話す。
「濃厚な風味と肉厚な食べ応えが魅力で火を入れても縮まない」八木田牡蠣商店の「浜名湖かき YAGITA OYSTER」は県内十数件の飲食店と鮮魚を扱う個人店、県外の高級料理店、市場に出荷されている。直売所もあり、この日も10時前から地元の人が買いに来ていた。わさわざ遠方から来る人もいるそうで、中には浜名湖の牡蠣の方がいいと、有名産地から来る人も。浜名湖の牡蠣の全国シェアは0.2%だと言うが、その美味しさはシーズンを楽しみに仕入れる飲食店や直売所を訪れる客が物語っている。ちなみに、シーズン突入直後の11~12月は、毎年予約でいっぱいとのこと。1月からは少し落ち着く上に、大きさも美味しさもさらに増すという。狙い目は1~3月だ。
 焼き、フライ、鍋と食べ方はいろいろあるが、八木田さんのおすすめは「オイル漬け」。牡蠣を醤油、みりん、酒、砂糖で甘辛く煮て、それを、オリーブオイル、ニンニク、鷹の爪、ショウガのコンフィオイルに漬けて冷蔵庫で2日寝かせれば完成。そのまま食べるのはもちろん、パンにのせてトーストしたり、パスタに使ったり、炒めご飯にしても美味しいそうだ。


購入して帰り、早速食べてみたが、プリプリで肉厚で、
ジューシーで、まさに、一粒で幸せな気分になれた





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八木田牡蠣商店
住所/浜松市中央区舞阪町舞阪18-1
営業時間/9:00~16:30(11月下旬~4月中旬)
定休日/不定休
電話/053-592-0485
公式サイト/https://yagitaoyster1922.jimdofree.com/
販売/むき身大1㎏5000円、500g2500円(33粒位入り)。小さいサイズは粒の数が多く1㎏4600円、500g2300円
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※生食用として販売される牡蠣は収穫後減菌洗浄されるが、浜名湖の牡蠣は加熱しても縮まないという特性を活かすため、あえてそのまま、加熱用として販売。養殖場が近く収穫してすぐに剥き身として出荷されるため鮮度がいい。地元の飲食店ではその日のうちに客に提供される。


露地養殖で3~4年。
自然のリズムで育てる
名だたる料亭が認める
「浜名湖のすっぽん」




冬の風物詩ともいえる「すっぽん鍋」。そのすっぽんの養殖を日本で初めておこなった、元祖とされる店「服部中村養鼈場(ようべつじょう)」が浜松市・舞阪にある。明治12年に初代が東京・深川ですっぽんの養殖を始め、その後明治33年に浜名湖畔に大規模な養鼈場を造り、現在は年間数十万匹を養殖。得意先にはすっぽん料理の名店・京都の「大市」をはじめ名だたる高級料亭の名が連なる。プロが認めた唯一無二の養鼈場ということだ。ちなみにすっぽん養殖を始めた明治の頃はまだまだ需要が少なく、並行してうなぎの養殖も始めたそうで、なんと、うなぎの養殖もこの店が日本初だという。
案内されたのは舞阪の某所にある約5000坪の広大な養鼈場で、別の場所にも約2万坪の養鼈場があり、合わせて100面超え程の池があるという。あたりには雑草も生え、池には水草も。ハウスも屋根もない野ざらしの場所ですっぽんが育てられているとはちょっと意外だった。「うちは産卵からやっていて、親亀が砂地に卵を産んだら孵化施設に運び孵化させます。人の手が入るのはこの孵化の時だけで、池に放った後はすべて自然のリズムのままに、だから雑草も、水草も生えています。池の水温も自然のまま、加温などはしていません」と話すのは鈴木康正さん。これを「露地養殖」というのだそうで、服部中村養鼈場の最大のこだわり。出荷まで3~4年かけ、できるだけストレスを与えないように育てることで、肉質のやわらかい、臭みのないすっぽんになるのだそうだ。


広大な敷地に何面もの池が広がる。
浜名湖周辺の温暖な気候がすっぽん養殖に適しているのだそうだ



成長によって池を移動するそうで、この池の中に出荷サイズがいる

そんな説明を聞いていたら、軽トラックの軍団が到着。現場作業を担う6人の精鋭部隊で、朝はすっぽんの「取り上げ」という重要な作業がある。足の付け根近くまである長靴を履き、手には特大の農業用フォーク。池に入るや池の中にフォークを刺しすっぽんがいるかどうかを確認。「刺してコツコツという音と感触があればカメがいる。石よりは柔らかい感触」と話すのは現場チーフの吉澤昴さん。30分も経たないうちに103匹のすっぽんを取り上げた。草刈や池の整備・管理もこのチームが行っていて、安心・安全なすっぽんを養殖するため、除草剤などは使わず全て人力でやっているとのこと。もちろんエサも、人工的薬剤は使わず企業秘密の独自ブレンドの有機飼料を与えているそうだ。


池はすり鉢状になっていて、深いところは人間の膝あたりまである


特大フォークですっぽんを探りあて、一匹ずつ取り上げるる


すっぽんは水温が15°未満になると冬眠し、一年の約半分は冬眠しているそうだ


チーフの吉澤昴さん

取り上げたすっぽんは出荷場に運ばれ、次は選別作業となる。取引先の料理店も豊洲の市場も、それぞれほしいサイズが違うため100g単位で仕分けしていくが、600g~1.2㎏が出荷サイズとなる。小さいサイズはまた池に戻すそうだ。選別の後は梱包。取りに来られる飲食店用、出荷用と分けられる。


選別はサイズだけでなく、色や動き、傷などもチェックする


案内してくれた鈴木康正さんが選別、出荷を担当している


顎の力が強いので噛みついたら離さない。
基本臆病なので警戒してそうなるのだそう。でも意外にかわいい顔!?


「食べる箇所は、両手、両足、首のあたりと、甲羅の周りのエンペラですね。エンペラは鍋にするとこんにゃくみたいな食感で美味しいですよ。甲羅は食べませんが、いい出汁がでるんです」。服部中村養鼈場では鍋用にカットしたすっぽんも販売していて、電話注文しておけば当日捌いたすっぽんを用意してくれる。900g(正味約600g)甲羅付きで7000円(2~3人前)というから、かなりお得だ。他にも独自開発したすっぽんスープ、すっぽんスープカレー、サプリメントも販売。後日、スープを、オススメと教えてもらった雑炊にして食べたが、臭みなど一切なく、とても上品な味で、その贅沢感に大満足。すっぽんと言うと、滋養強壮のイメージが強いが、アミノ酸、コラーゲン、ビタミンが豊富で美容や健康にも効果があるそうだ。


恐る恐る触らせてもらうと、エンペラの部分は少しやわらかい。
足のあたりはプニョプニョしていて、甲羅とお腹はかたい



出荷場の奥にはサイズ分けしたすっぽんの水槽が並ぶ


カット販売もしているので、家庭で気軽にすっぽん鍋が味わえる


スープは雑炊の他炊き込みご飯や茶わん蒸しにもおすすめとのこと


「すっぽんスープカレー」は和風仕立てのすっぽんスープを
ベースにチキンと鰹昆布のスープも入っている



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服部中村養鼈場
住所/浜松市中央区舞阪町舞阪2621-101
営業時間(販売時間)/8:00~16:00 ※カットすっぽんは前日までに連絡を
定休日/土・日曜日、祝日
電話/053-592-0020
公式サイト/https://www.hattori-suppon.co.jp/
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湖畔の日本料理店で
浜名湖と遠州灘を味わう。
今が食べ時の旬の味
「牡蠣」と「すっぽん」




牡蠣やすっぽん、うなぎ、ドウマンガニといった浜名湖の幸から、遠州灘のフグ、ハモ、しらすまで、浜松が誇る海の幸が味わえる店として地元はもちろん、観光客にも人気の「浜菜坊」に待望の牡蠣を食べにおじゃました。この店で使っている牡蠣は八木田牡蠣商店の「浜名湖かきYAGITA OYSTER」で、すっぽんももちろん服部中村養鼈場から仕入れている。長い付き合いだそうで、品質の良さには太鼓判を押す。


玄関を入ると巨大水槽がお出迎え。中にはドウマンガニも


すっぽんもスタンバイしている

 「浜名湖の牡蠣は味が濃くて、火を入れても縮まない。プリンとしていてダレないんだよね。水揚げしてから届くまでの時間が短いから、鮮度もいい。生産量が少ないから、外に出ないしね」。と話すのは店主の岡田謙さん。ということは、浜松エリアだけで美味しい牡蠣をひとり占めしていて、ここに来なければ食べれないということだ。
最初に用意してくれたのは、まさにご当地でしか味わえない「牡蠣カバ丼」。浜名湖産の牡蠣をうなぎのタレで焼き、遠州産のタマネギと一緒に、浜名湖産の海苔を敷いたご飯にのせた丼で、最後にミカンの皮をトッピングする。店によって味が違うそうで、「浜菜坊」では、炭火焼き「うなぎの蒲焼」の秘伝のタレを使用しているそうだ。まずは一口。プルンとしていて肉厚で、牡蠣の旨味とうなぎのタレがジュワッと口中に広がる。牡蠣とうなぎのタレって、こんなにも合うんだ!? ミカンの皮の香りが爽やかでいいアクセントになっている。これは間違いなくご飯が進む。続いて登場した焼き牡蠣も肉厚で食べ応えがあり、牡蠣の味が際立つ。こちらもツルリと完食。浜菜坊では牡蠣フライ、牡蠣鍋も提供しているが、岡田さんは「牡蠣本来の味をダイレクトに味わいたいなら牡蠣の天ぷらだね」。次回ぜひいただこう。


秘伝のタレで牡蠣を焼く


「牡蠣カバ丼定食」2300円 
※12月上旬~3月上旬期間限定(予定)



「浜名湖特産殻付き焼き牡蠣2個」1550円

すっぽんは基本、コース(要予約)で提供していて、鍋、唐揚げ、雑炊が味わえる。「服部さんのものは臭みが一切ない。年中提供しているけれど、やっぱり冬がおすすめだね。冬眠のため脂を蓄えていて脂身がある。肝も大きいしね」。頭と甲羅以外は全て食べるそうで、脂のある手足は唐揚げに。ゼラチンが豊富とのこと。鍋の出汁はすっぽんだけで仕立てているそうで、具材もネギと三つ葉、シイタケのみでシンプルに。すっぽんそのものの上品な味が楽しめる。


「すっぽんコース」14000円~

「浜菜坊」のメニューは地元の舞阪港に揚がる旬の魚介がメインで、冬は地元産のトラフグ、夏は舞阪ハモのコースも味わえる。夏限定の出汁醤油で食べる「生しらす丼」は毎年大好評で、外はパリッと、中はふんわりとした食感のうなぎの蒲焼のファンも多い。
浜名湖、遠州灘は、まさに海の幸の宝庫だ。ここでしか味わえない、抜群の鮮度の、土地の味を楽しみたい。


「冬はコチや真鯛、夏はかんぱちもいいよ」と話す、
この道34年の岡田謙さん



浜名湖畔に店はある




帰り際、店の外に、しらす、すっぽん、牡蠣カバ丼、
うなぎの蒲焼の自動販売機を発見!お土産に良さそうだ





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浜菜坊
住所/浜松市中央区舞阪町弁天島3101
営業時間/11:30~14:00、17:00~20:30(最終入店20:00)
定休日/火曜日、第2水曜日
電話/053-592-1676
公式サイト/https://www.hamanabo.co.jp/
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ライター:海野 しほこ
写真:藤本 陽子
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