ららら紀行

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生産量は日本トップクラス。沼津の伝統産業「沼津ひもの」を紐解く。
#沼津  #沼津ひもの  


日本一高い山「富士山」と日本一深い湾「駿河湾」。この両方に囲まれた立地にある静岡県沼津市。東名・新東名高速道路、国道1号線・246号線と、東京方面・名古屋方面の両方からのアクセスに優れた場所にあります。高速道路から伊豆・三島・箱根方面に向かう玄関口でもあり、アニメの聖地としても知られる沼津市内の各スポットには多くの観光客が訪れます。

特に沼津港は、新鮮な魚介類を使った飲食店が立ち並ぶため、お食事処としても人気があります。そんな沼津港やその周辺には、たくさんの干物店も。沼津は、全国有数の干物の生産地としても知られているのです。


「沼津ひもの」の歴史。「干物」と「開き」は全く異なる製品。





沼津市は柿田川をはじめとする富士山からの湧水が豊かなことに加え、駿河湾で獲れた魚が水揚げされる沼津港、日本のほぼ真ん中に位置し、縦横無尽の交通網を有することから、流通・販売経路に最適な場所として「沼津ひもの」は発達。特に、アジの干物においては、一大生産地となっているほど。




干物という文化は、日本固有のものではなく、世界各国に存在する加工法ではありますが、日本でもその歴史は古く、縄文時代の貝塚からも見つかっているといいます。歌川広重の「東海道五十三次」の沼津宿にも、干物が干している様子が描かれていることから、すでに江戸時代には沼津に干物文化が根付いていたことがうかがえます。明治末期から大正の頃になると、狩野川河口を中心に干物加工問屋が軒を連ね、沼津の干物は発展していきました。大正から昭和に入る頃、魚を開いて内臓を取り出し、塩水に漬け、天日干しにした今の「沼津ひもの」の製法が確立。

温暖な気候と浜風、全国各地から新鮮な魚が手に入りやすい場所、そして水をたくさん使用することから豊かな水源があること。沼津はこれらの条件を満たした、干物づくりに最適な土地と言われています。そして、東海道線などの輸送手段の進歩により、日本有数の干物の産地として発展していきました。

実は「干物」と「開き」は異なります。
「干物」はその名の通り、天日(あるいは機械)干したもので、「干す」ことによってアミノ酸やイノシン酸が増え、旨味がアップ。職人が丁寧に魚をさばき、内臓を取り出し、その日の気候や風、日照具合によって干し方や向きを調整することによって、おいしい干物が完成します。
「開き」の場合は、大量生産のためにその工程を簡略化させたもの。「干す」というより、機械などで乾燥させることで手早く仕上げ、手に取りやすい価格で流通しています。
干物の魚の水分量は約50%、開きの魚の水分量は約80%。この水分量の違いは、たとえば干物や開きを冷凍しておいて食べる際の解凍の仕方、焼き方にも差が出てくるのです。

今では、一般の消費者はもちろん、生産者でさえ、干物と開きの区別がついていない人も増えてきているようです。 ちなみに「沼津ひもの」の場合は、魚を開いた後、塩汁(しょしる)と呼ばれる塩水に漬け、それを干して作ります。


「沼津ふなと」では、職人が魚の個体差、その日の気候・風・湿度に合わせて作り方を調整。




近年では、機械等を使った量産型の「干物」や「開き」と呼ばれるものが増えていますが、今も機械を使わず、昔ながらの製法で無添加での干物づくりを継承しているところがあります。「失われつつある日本らしさを、ほんの小さな食から後世で繋いでいきたい」。そんな想いで営む干物店、「沼津ふなと」を営む「有限会社ふなと」の代表取締役・渡邉一浩さんに、干物の生産工程などについてのお話を伺いました。







機械を使ったり、添加物を使用したりすることで、干物作りも昔に比べて随分、手間がかからなくなりました。しかし、「沼津ふなと」では、機械を使わずに職人の腕を頼りに魚と塩のみの無添加で干物作りをしており、食べると干物の概念が変わるとも言われるほど評価が高いのが特徴。

職人が1匹1匹、個体差に合わせて魚に包丁を入れ、丁寧にさばき、そして形を整えていきます。製造過程を見ていると、職人が実に魚を丁寧に扱っていることが伝わってきます。「厳選して仕入れた良い魚だからね。大切に扱うのは当たり前のことだよ」と話します。




魚をさばき終わったら、塩汁を用意します。干物店によっては、この塩汁を使い回すところも。そうすることで独特の旨味を生み出したりするのですが、無添加で作る関係から、塩汁は毎回、作り直します。塩は、ほんのりと黄色がかった海水天日塩。まろやかな味でとがった塩辛さがないのが特徴です。ミネラルを豊富に含み、魚の旨味を引き出し、そして干物をまろやかに仕上げてくれます。

塩の配分や漬け込み時間は、干物によって変えているため、目分量に頼らず、計量しているのが特徴とも言えるでしょう。そして水は惜しげもなくたっぷりと使用。沼津の水は富士山の湧水を使用していることから水そのものもおいしい。この水と海水天日塩を組み合わせて使用することで、おいしい干物になるというわけです。




次に、自然の風の力を利用して干し上げていきます。無添加で作っていることもあり、直射日光に当ててしまうと魚の変色を招いてしまうことから、工場内で窓や入り口の風通しを良くし、自然の風の力を利用して乾燥させています。その日の湿度、気温、風の強さ等に応じて、干す場所は調整。風の力を補うために、扇風機で風量を調整しています。この工程も干物作りにおいて、重要な部分で、魚本来の旨味が凝縮・熟成され、表面にできる膜がおいしさを閉じ込めていきます。




「沼津ふなと」のもう一つの特徴は、魚をさばくところから干すところまで、全て同じ職人が担当している点。魚をさばく人、塩汁に漬ける人、干す人と作業ごとに分担している干物店も少なくありませんが、魚の状態をしっかり把握している職人が、担当の魚を最初から最後まで一貫して担当するので、より良い状態で完成させることができるのです。


トロさばやアジ、サンマ、アユなどさまざまな干物を販売。





特味付きの醤油干しの干物もありますが、こちらも静岡県内で製造された醤油や本みりんを使用しているのが特徴。水飴や着色料、酸化防止剤などの保存料などを使わず、厳選した良い原料だけを使用して作るから、他に引けをとらない干物ができあがるのです。

「魚の脂は変質しやすく、酸化して痛みやすい。うちみたいな作り方は、手間もコストもかかるし、大変。でも、他がやらないことを敢えてやっている。独自の製法、パック技術、そして販売スタイルがある」と渡邉さんは話します。

おすすめの干物は、トロさば。脂がのった天然サバのみを厳選し、薄塩で仕上げています。干すことで旨味をぎゅっと凝縮。一番リピーターが多い商品です。他には、珍しいところではアユの干物も。川魚独特の香りが苦手という人も多いといいますが、干物にするとそれが緩和され、まろやかな旨味になると共に、こんがり焼けば、頭や骨まで食べることができます。もちろん、「沼津ひもの」の定番であるアジも人気があります。




干物が日本の食卓から減りつつある昨今、少しでも干物を食してもらえたらと、調理しやすい形での提供にも力を入れています。

購入してから早めに食べるのが一番ですが、冷凍して保存する場合には、真空パックされたものがおすすめ。長期間保存が可能で、流水解凍なら短時間で焼きはじめることができる優れもの。実は、完全解凍してから焼きはじめるのが、おいしく焼き上げるコツです。また、グリルで魚を焼くと片付けに手間がかかることから、フライパンでも簡単に焼けるサイズにしたものも販売したりと、手に取りやすい形での提供を心がけているようです。

1997年からスタートしたインターネット販売ですが、店主は対面販売も大切にしています。店舗では、ただお客さんに売るだけではなく、必ず対話も大事にしています。干物の魅力、保存方法、おいしい食べ方などを伝えているそう。一見、同じ干物に見えても一匹一匹個体差があるので、脂のりがいいものがいい、少ないものがいいなど、好みに合わせて選んでもらうこともできます。

良質な干物を食べたい、干物の新しい魅力を知りたい、そんな方はぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょう。



沼津ふなと
所在地:静岡県沼津市岡一色332-3 沼津ぐるめ街道沿い
TEL:055-922-2123

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