ららら紀行

0021
静岡の水と自然が織りなすオール静岡のウイスキー
#ウイスキー  #南アルプス  #静岡市  
静岡市の中心部から車で40分ほど北上し、安倍川沿いに約20km進むと、「玉川」という場所にガイアフロー静岡蒸溜所があります。
建物の内外装には静岡産の杉や檜が使用されており、周囲の自然環境に調和するよう景観にも配慮された造りです。
ガイアフローでは蒸留所見学も行っており、見学に訪れる人は2024年10月現在延べ一万人以上となりました。
全国各地から静岡蒸溜所のウイスキーを現地で味わいたいという方々が多く人気です。


ガイアフロー静岡蒸溜所外観
また、どのようにして静岡のウイスキーが作られているのか。蒸留所内を見学しながら、代表取締役の中村大航さんにお話を伺いました。

南アルプスとウイスキー


高い天井の空間に並ぶ巨大なポットスティル
蒸留所の中に入ると、大きな空間に案内されました。そこにはウイスキー造りでいちばん重要な「ポットスティル(蒸留機)」が3基設置されており、その迫力に驚きます。見上げるほどの大きさのポットスティルは最大6,000リットルの容量を誇ります。スコットランド製の薪の直火による初留釜W、軽井沢ウイスキー蒸留所から移設した初留釜K、そして同じくスコットランド製の再留釜S。この3基を駆使して、数種類の違ったタイプの原酒を造っているとのこと。このポットスティルを3基使用する蒸留所は大変めずらしいのだそうです。


蒸留所のすぐ隣を流れる安倍川
そのウイスキー造りの命となるのが「水」と中村さんは語ります。
ウイスキー造りのすべての工程に水が使用されるため、豊富で清らかな水が必要となります。静岡蒸溜所のウイスキーに使用される水は、蒸留所のすぐ横を流れる安倍川の伏流水。その上流には南アルプスがあります。敷地内に井戸を掘り、地中から汲み上げる水の硬度は70。国内の蒸留所の中では、山崎蒸留所の90に近い高さです。静岡蒸溜所のウイスキーは硬度のやや高い軟水を使用しています。

ウイスキーとの出会い


真剣な眼差しで語る中村大航さん
ウイスキー愛好家として自分が飲んでみたいウイスキーを作る中村さん。ウイスキー造りを始めるきっかけは、スコットランドのアイラ島へプライベートで訪れたときのこと。「モデルとしたのはアイラ島のスコッチウイスキーの小さな独立系蒸溜所です。地元の農家さんと一緒になって大麦を作り、それを仕込んでウイスキーをつくっているのを見て、私のウイスキーのコンセプトが決まりました。」と語る中村さん。
土地の資源を活用し、土地の味を作るという考え方をウイスキーの世界で表現したいと動き始めました。

オール静岡ウイスキー


静岡らしいウイスキーとは何なのか。
そう考えた時に「すべて静岡のもので作ろう」と考えた中村さん。


ウイスキーを作るために使用される大麦麦芽

特徴の一つとなるのが、静岡県産のモルト(大麦麦芽)を使うこと。創業当時、静岡県内では大麦はほとんど作られていませんでしたが、静岡県やJA、農家の皆さんの協力を得て、2019年本格的に栽培をスタートし静岡蒸溜所が初めて「100%静岡産モルトウイスキー」の製造を提唱したそうです。


ずらりとならぶ木製の槽
突如として目の前に現れた巨大な木製の槽。
これは地元の木材を使った木製の発酵槽で、これを使って麦汁を発酵させます。今では木製の槽を作る技術者が少ない中、地元の関係者に助言を仰ぎ山に入って木から選定。2年以上の歳月をかけ完成しました。日本の杉をウイスキー造りに活かすという発想は、静岡蒸溜所が最初であり、「静岡」表現するために欠かせないものなのだそう。通常使用するステンレス製とは違い、断熱性や理想的な発酵温度を維持できるため、味わい深いものができます。
しかし、日々のメンテナンスも必要で、手間がかかります。


直火を使用しているポットスティル
さらに、世界に例がない「薪の直火蒸留」にも挑戦しているとのことで、火入れ部分を見させていただきました。そこには力強く燃えたであろう木の炭があり、通常は蒸気で蒸留するところを、200年前に行っていた「薪を焚く」方法を再現し、木こりさんに薪を持ってきてもらい地元の間伐材を自然乾燥させ、燃やしているそうです。


職人によって作られた富士山のミズナラ樽
ウイスキーを熟成させる樽は主にアメリカから輸入したバーボン樽を使用しますが、富士山のミズナラ材で造られた樽もあります。
これは、オール静岡ウイスキーを作るために特別に3樽のみ製作されたのだそうです。
地元の水・大麦・酵母・木製の発酵槽・燃料の薪そして樽。原材料からウイスキーを作る過程のものまですべて静岡のもので作ることによって、日本・世界中のウイスキーファンの心を掴んでいます。

静岡蒸溜所のウイスキーを楽しむ


ガイアフロー静岡蒸溜所では、蒸留所内をくまなく見学できるツアーがあります。製造の現場をガイド付きで1時間かけて見学し、香りや熱気を体験。そして最後はお楽しみの試飲。
試飲室に入ると、ポットスティルが現れる静岡蒸溜所ならではの空間が広がります。静岡蒸溜所のウイスキー各種を飲みながら見学の余韻に浸る贅沢な時間を楽しめます。


ポットスティルを眺めながら試飲ができる試飲室
また、樽のオーナーになれる「プライベートカスク」という商品の販売もあるとのこと。仕込んでから3〜4年樽で熟成し手元に届きます。
「樽のオーナーになることで愛着が湧きますし、オーナーは無料で蒸留所見学に参加でき、その場でサンプルの原酒を抜いて味わうこともできます。わざわざ静岡に来ることで、静岡にも愛着を感じてもらえます」と県外の方にも「樽買い」は人気です。

美味しい・希少価値が高いと評判になり、予約だけで完売すると噂になるほど、手に入れることが困難だと聞きます。
そこでウイスキーが飲めるお店を紹介いただき、さっそく伺ってきました。

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ガイアフロー静岡蒸溜所
[住所]静岡県静岡市葵区落合555番地
[営業時間] 9:00~17:00 定休日/見学スケジュールによる
[TEL]054-292-2555
[URL]https://shizuoka-distillery.jp
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Bar大代園


ご紹介いただいたのは静岡駅北口から徒歩5分。飲食店が立ち並ぶ繁華街のレンガ調の建物の地下にある「Bar大代園」。
重厚な扉を開けると「ふじのくに食の都づくり仕事人」の店主、杉山大地さんが出迎えてくれました。


繁華街にひっそりと佇む知る人ぞ知るBar大代園
島田市金谷出身の杉山さんは、埼玉川越・東京銀座などで修行を積み自分の店を静岡市で開きました。
「大代園」の店名は曾祖父が「大代園」の屋号で茶の生産・販売をしていたことから、この店名に。「茶道が文化であるように、Barも一つの文化。いつかBarという特殊な文化を、この地に定着させたい。それが人生の目標であり、自らに課した使命。ですから地元の幸をカクテルに取り入れるのは当然のこと。職業は生き方だと思いますから」と杉山さんは語ります。



カウンター奥の棚にはたくさんのボトルが並んでいます。その中に静岡蒸溜所のウイスキーも並んでいました。
早速静岡蒸溜所の「シングルモルト静岡 ユナイテッド S」をストレートで注文。一口飲むとクリーミィな甘みと杉のような独特の風味が鼻に抜け、クセはなくマイルド。
トゥワイスアップ(水とウイスキーを氷なしで1:1)で飲むのもオススメとのこと。


左)梨を使ったフローズンカクテル 右)静岡茶のカクテル
リクエストをすると地元静岡のお茶や旬のフルーツを使ったカクテルなど、他では飲むことのできない静岡のオリジナルカクテルを作ってくれました。
杉山さん曰く「お客様のニーズに応える、どんなものを望んでいるか聞き、それに合うお酒を出す。お客様が気に入ってくれることが1番の喜び」だと言います。
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Bar 大代園
[住所]静岡市葵区呉服町2丁目9-1 玄南偕楽ビル地下1階
[営業時間]19:00~27:00 定休日/日曜日・祝日
[TEL]054-273-7676
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最後に、静岡の清らかな水は、ウイスキーづくりに重要な材料です。
静岡蒸溜所をはじめ、さらにその奥には井川蒸溜所(十山 じゅうざん)があります。さらに、時之栖富士(時之栖)「富士かぐや蒸溜所」も準備している様子。
おいしい水を使い作り上げるウイスキーは世界からも注目されはじめています。

静岡でおいしいウイスキー、おいしい料理を食べる旅に、是非お出かけください。
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