ららら紀行

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富士山と駿河湾がもたらす水の恵。田子の浦しらすと日本酒を知る。
#日本酒  #富士山  #駿河湾  #しらす  
日本列島のほぼ中心に位置する日本一深い「駿河湾」。その水深は最も深いところで2,500mあり、日本一高い標高3,776mの「富士山」との高低差は6,000m以上になります。 駿河湾が誕生したのは約60万年前。フィリピン海プレートが日本に衝突したことにより、この地形が生まれたといわれています。海底勾配が急なこともあり、湾内には黒潮系・亜寒帯系・太平洋という3種の海洋深層水が存在。この海洋深層水がもつ、低温安定性・清浄性・高栄養性などの優れた特性のおかげで、多様な生物が生まれました

また、富士山に降る雨や雪が長い年月をかけて湧き水となって駿河湾へ流れ込むことにより、一層豊かな生物を育んでいます。
高低差6,000m以上のダイナミックな地形が生む水の恵み。その恩恵ともいうべき「田子の浦しらす」と、静岡の地酒「高砂(たかさご)」を手がける富士高砂酒造についてご紹介します。



すべては鮮度と品質のため。伝統漁法にこだわる「田子の浦しらす」。





東海道新幹線新富士駅より車で約7分。富士山に一番近い港・田子の浦漁港は、1961年(昭和36年)に国際港として開港した港です。漁獲量は年間150〜170トンを誇り、ブランドしらす「田子の浦しらす」を中心にこの地の人々の食卓を彩ってきました。新鮮な「田子の浦しらす」を求め、併設の「田子の浦港漁協食堂」には県内外から多くの観光客が訪れます。その人気の理由について「田子の浦漁業協同組合」の方々にお話を伺いました。



「第八真海丸」の漁師・望月さん。

「しらすにとって、田子の浦漁港は非常に魅力的な場所です」と話す漁師の望月さん。日本一深い駿河湾の深海から、湧昇流という流れに乗って海底の栄養が運ばれていきます。それに加え、富士山や近隣の愛鷹山から流れる栄養豊かな水が駿河湾に合流し、植物性プランクトンが発生。そしてそれをエサとする動物性プランクトンがやってきます。しらすはこの動物性プランクトンを求めて田子の浦 漁港に集まります。



しらすにはいくつかの種類があるのをご存知でしょうか。イワシの子どもであるしらすは、生後1〜2か月、体長3cm程度のものを指します。ウルメイワシ・マイワシ・カタクチイワシ(セグロイワシ)・カタボシイワシといった種類があり、実はイワシの種類によってその見た目や味わいが異なるそうです。
カルシウムはもちろん、記憶力・学習能力の向上に効果があるとされるDHA、血液をサラサラにするEPA、貧血予防となるB12、シミ・シワ予防が期待できるエラスチンが豊富な食品で、赤ちゃんの離乳食としても人気です。




田子の浦で獲れたというだけで「田子の浦しらす」を名乗れるわけではありません。その漁法や管理方法には歴史とこだわりがあります。
全国的にメジャーなしらす漁法は2艘の船で網を曳く「二艘曳き」ですが、田子の浦で行われているのは、1艘の船で網を曳く伝統的な「一艘曳き」。漁の時間は、一艘曳きが1時間程度に対し、二艘曳きはわずか15分ほど。新鮮な生きたままのしらすを水揚げすることができます。

鮮度抜群のしらすは、水揚げしたら即氷締め。網を通過したしらすから次々と氷を絡ませ、新鮮さをキープします。氷締めするスピードはもちろん、氷の量によっても鮮度に影響が出てしまうほど繊細なしらす。限られた時間のなか、最大限気を張りながら漁に臨んでいるということでした。

新鮮なしらすは、釜揚げするとひらがなの「し」の字になるのが特徴。鮮度があまりよくないものは「く」の字に近いかたちになるということなので、ぜひ売り場でチェックしてみてくださいね。




このように地理的条件と伝統漁法によって生まれた「田子の浦しらす」は、2017年に農林水産省が行う「地理的表示(GI)保護制度」に登録されています。伝統的な一艘引き漁法を行っていること、形や鮮度がいい状態で水揚げされていること、網の投入から加工まで短時間で行われていることなどが評価されました。また、2021年には「田子の浦釜揚げしらす」も登録。1品目で2つ登録されているというのは、全国でも田子の浦 漁港だけだそうです。


「田子の浦漁業協同組合」古江さん。

そんな「田子の浦しらす」ですが、年々漁獲量が減っているのも事実。最大200トンほど獲れた年もあったそうですが、2022年には24トンと希少性を増しています。特に2023年は猛暑の影響でプランクトンが増えず、漁獲できない状況が続いたとのこと。「食堂では冷凍生しらすやその他の地魚を提供するなど、観光にいらっしゃった方にできるだけ喜んでもらえるよう、努力を続けています」と田子の浦漁業協同組合の古江さんは話します。
「田子の浦しらすは、他に引けを取らないおいしさがあると自信を持っています。近年は漁獲量の減少に加え、後継者不足などの課題もありますが、研究機関に調査をしてもらったり、環境保護に成功した他県の事例を見学すべく漁師さんたちで研修に行ったりと、今わたしたちができることに取り組みながら、この魅力あふれる宝物を後世に伝えていきたいと思います」。



田子の浦漁業協同組合(漁協食堂)
[住所]静岡県富士市前田866-6
[TEL]0545-61-1004
[URL]https://tagonoura-gyokyo.jp/



富士山伏流水と杜氏の目利きが生む、優しく甘みのある口当たり。






静岡県にはおいしい水を生かし、27の蔵元があります。新富士駅から車で約30分、「富士山本宮浅間大社」の近くにある「富士高砂酒造」もそのひとつ。創業は江戸時代の1830年。富士山伏流水と能登杜氏の伝承技術にこだわった酒造りを続けています。




良質な酒造りにとって重要な要素である、水・酵母・酒米。そのうち「富士高砂酒造」で醸造されるお酒最大の特徴ともいえるのが、富士山の伏流水を使用していることです。100年の歳月をかけ自然のろ過を施された伏流水は、ミネラルのうちカルシウムなどが少なく、発酵力の弱い超軟水。じっくり時間をかけ、酵母を発酵をさせるのに適した水です。「富士高砂酒造」では地の利を活かし、原酒をつくるための「仕込み水」はもちろん、洗米、原酒に加える水などもすべてこの伏流水を使用しています。


「富士高砂酒造」小野杜氏


やわらかくまろやかな口当たりに仕上がる富士高砂の酒造りに欠かすことのできない伏流水ですが、この伏流水を使った酒造りはとても難しく、かつ手間がかかります。
3℃差で味に影響が出てしまうほど、温度管理も重要な要素のひとつ。富士宮市は富士山麓の地ということもあり、酒造りの季節にはそれに適した気温になることが多いのですが、近年の温暖化によりそれも変わってきます。冬場ですら氷をつかって適温に保つということも。
“杜氏が変わると味もすべて変わる”と 小野杜氏が語るほど、繊細でプレッシャーのかかる酒造り。
「今後は歴史や伝統を重んじながら、今の状況にフィットした進化も求められます。能登杜氏より伝承されてきた技法を守りつつ、米の旨味を最大限に活かせるような酒造りに励みたいと思います」と杜氏の小野さんは話します。




「富士高砂酒造」の酒蔵横には試飲・購入のできるスペースが併設され、こちらも観光客や地元の方で賑わいます。ロンドンで行われたコンクール「インターナショナルワインチャレンジ(IWC)2023」SAKE部門で銀メダルを受賞した「高砂 山廃純米吟醸」をはじめ、各種さまざまな地酒が所狭しと並びます。
日本酒だけでなく、社員みんなで収穫にいくという地元農家の梅をつかった梅酒や、富士宮で人気の牧場「いでぼく」がつくるヨーグルトと「山廃本醸造」をブレンドしたリキュールなど、地産地消を意識したラインナップも豊富です。




お酒が飲めない方におすすめなのは、高砂ソフトクリーム。とろっとたっぷり甘酒をかけて、濃厚な風味となめらかな口どけのソフトクリームです。ここだけでしか味わえない隠れた銘品です。
富士山の伏流水と造り手の絶え間ない努力が歴史と伝統を紡いでいる「富士高砂酒造」。霊峰・富士の恵みを五感で体感しに、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。





富士高砂酒造株式会社
[住所]静岡県富士宮市宝町9-25
[TEL]0544-27-2008
[URL]https://fuji-takasago.com/


明治15年創業。水の恵みをいただける老舗日本料理店「日本料理 すし 魚民」。





新幹線新富士駅から車で約16分、「田子の浦港」から車で約10分、「富士高砂酒造」からは車で約27分。田子の浦港で水揚げされたしらすなど、静岡県内を中心とする海の幸と、「高砂」をはじめとする多様な地酒をいただけるお店が、静岡県富士市にある「日本料理 すし 魚民」。1882年(明治15年)に創業し、2023年で141年を迎える歴史あるお店です。
ノスタルジックな雰囲気あふれる完全予約制の本館と、バリアフリー対応した新館「雅粋庵」に分かれ、普段使いだけでなく、お祝いや会合といった大人数のシーンまで、幅広く利用できます。新館1階には寿司カウンターも。駿河湾の地魚だけでなく、県内外の貴重な食材が揃うとあって、食通の常連が通います。




「日本料理 すし 魚民」の魅力を存分に堪能できるのが、富士ブランド認定品『富士「味」御膳』。自慢の握り8貫と巻き寿司に加え、小鉢2種と味噌汁が付きます。魚の種類は水揚げの状況により異なるとのこと。この日は清水港のまぐろ、沼津港のカンパチ、タイが並びました。小鉢は魚民オリジナル「桜エビしんじょうアーモンド揚げ」と、生しらすです。



「日本料理 すし 魚民」4代目店主・森田克彦さん。
「小鉢についても仕入れによって内容が変わります。しらすは近年とても希少な品なので、アジのタタキなど、別の地物を提供することも。それでもやはり、”田子の浦しらす”を求め県外から来られるお客さまが多いのも事実。地元が誇る田子の浦しらすの魅力を、もっと多くの方に伝えていきたいですね。」と店主の森田さんは話します。




「日本料理 すし 魚民」では地酒も豊富に揃います。「高砂」をはじめとする富士・富士宮エリアの地酒や、こちらのコラム でも紹介した「初亀」など、静岡県だけで14つの蔵の地酒を取り扱っています。冷や熱燗など嗜み方もさまざま。料理ごとのおすすめのペアリングを聞いてみるのもいいですね。ぜひ足を伸ばして、訪れてみてはいかがでしょうか。


日本料理 すし 魚民
[住所](新館 魚民「雅粋庵 GASUIAN」)静岡県富士市今泉1-8-38 (本館)静岡県富士市吉原3-3-13 
[TEL]0545-52-4105
[URL]http://www.uotami.co.jp/



【今回ご紹介したスポットのモデルプラン例】
9:00     JR沼津駅 発
9:30〜11:30  「田子の浦漁港」で見学・買いもの
12:00〜13:00 「日本料理 すし 魚民」で昼食
14:00〜15:00 「富士高砂酒造」で見学・買いもの
16:00     東海道新幹線新富士駅 着
※上記は車を利用した場合です
※各地への見学については事前に実施時間の確認および予約を取ったうえでご訪問ください
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