ららら紀行

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冷凍カツオ水揚げ量全国トップ。日本の食文化の一役を担う焼津のかつお節。
#鰹節  #天ぷら  #焼津  



縄文時代の頃より日本人の食文化を形成してきたカツオ。静岡県焼津市は冷凍カツオの水揚げ量全国トップを誇る地域です。
かつお節は、煮た状態を「なまり節」、燻し(いぶし)ながら乾燥させたものを「荒節(あらぶし)」、カビ付けと天日干しを繰り返してさらに乾燥が進んだものを「枯節(かれぶし)」といいます。その中でも、なまり節は、焼津が日本一の生産量を誇ります。昔ながらの「手火山式(てびやましき)」は手間暇かかる製法で、この製法でつくり続けるところは全国的にも希少となってきました。焼津のカツオ文化とともに、伝統の製法を紐解いていきます。

全国のかつお節製法の標準を築いたのが焼津。


焼津にある宮之腰(みやのこし)遺跡からもカツオの骨が出土しており、古くから焼津とカツオは縁が深かったことが伺えます。かつお節が誕生する以前のカツオを干して保存食にするという文化は、少なくとも飛鳥時代にはあったと言われ、焼津からも献納品になっていました。
かつお節の燻製法は、江戸時代初期に土佐(高知県)で起こり、それが伊豆に伝わった後、焼津へと広がりました。明治中頃までは、焼津のかつお節はカツオ漁業が盛んな土佐や薩摩(鹿児島)のものより下位に位置していましたが、各地から優れた製造方法を取り入れ、改良に改良を重ね、やがて明治の終わり頃になると品評会・博覧会で最高の地位を築いていきます。その後、焼津のかつお節製法が全国標準になり、焼津の職人が各地の工場を訪れ、製法を伝授していくようになりました。焼津には、今でも10数軒ほどのかつお節工場が営業を続け、日本の伝統食の一役を担っています。


焼津のかつお節製法において特徴的なのは、「焙乾(ばいかん)」と呼ばれる燻し(いぶし)の工程で、コナラやクヌギなどの落葉広葉樹を使用する部分にあります。この燻しの工程で、江戸時代から伝わる製法「手火山式」という焙乾方法でかつお節をつくっているのが1887年(明治20年)創業の「やまじゅう」です。手火山式でかつお節をつくっているところは、全国的に見ても数軒しか残っていないそうです。

全国的にも希少な「手火山式」のかつお節づくりを探る。


創業当初は、焼津港の市場近くで工場を構え、かつお節の「節(ふし)」と言われる工程までをつくっていましたが、1961年(昭和36年)に今の場所に移り、1997年(平成9年)になって削りの工程も行うようになりました。たくさんのかつお節工場がある焼津ですが、そのほとんどが「節」をつくる工程まで。削りの工程まで行うようになったのは、焼津の中でも早い方だったと言います。


「やまじゅう」こと「ヤマ十増田商店」の専務取締役 増田優介さん。
「やまじゅう」でのかつお節の製造工程を見せていただきました。
工場によって、かつお節のつくり方はさまざまで、見た目は同じでも味と香りは全く異なる仕上がりに。カツオをどの部位から切り始めて使うかも異なれば、骨を抜く工程を省略したり、薪は焼べても乾燥機で煙を循環させたりと、工程を簡易化しているところが増えてきています。
水揚げされたカツオは、市場で4.5kg、2.5kg、1.8kg、1.8kg以下という分類で競りにかけられます。「やまじゅう」では、4.5kgと2.5kgのカツオを使用。かつお節づくりは、脂ののり具合や鮮度などを見極め、品質の良いカツオを仕入れることから始まります。1.8kgのカツオは、小さい分だけ乾燥も早いので短時間で安価につくることができますが、美しい「節」にはならないといいます。美しい「節」にするためには4.5kg以上のものの方が最適。
小さいカツオでは、削ってしまうとふわふわの削り節にはなりにくく、粉状のものになりがち。これらは調味料やスープなどの加工品の原料になることが多いようです。
「水温が高い赤道付近で獲れるカツオは脂が少なくて良いかつお節に仕上がります」と増田さんは話します。




使いこまれた包丁。部位によって包丁を使い分けていきます。
仕入れてきた冷凍カツオは、半解凍くらいの状態で、まず、頭を機械のカッターで落とします。この作業のみ機械を使用しますが、それ以外はすべて手作業とのこと。熟練の職人が1匹1匹の状態を見極めながら内臓を取り、3枚におろしていきます。そのあと、カゴに入れ、1時間半ほど煮ていきます。
「昔は完全に解凍してから頭を切っていたんですが、いろいろ試した結果、半解凍の状態で頭を切ってから解凍する方が味が良くなることがわかりました。昔ながらのやり方を踏襲しながら、味を良くするための工夫は続けています」と増田さん。



続いて、骨抜きの作業。骨が残ると「節」がきれいにできないため、職人が丁寧に取っていきます。



表面が乾かないうちに、薪を焼べ、焙乾と呼ばれる工程へ。この薪はナラやクヌギなどの硬い木材が良いのだそう。この薪を使う工程が手火山式の最大の特徴。薪が燃える良い香りが漂います。約1時間半の間、位置を変えながら、均一に火が入るようにしていきます。
「うちではコナラを使用しています。燃える時間の調整のため、太さや長さは指定しています。燻製と同じなので、ゆっくり燃える木が最適。あと、着火剤代わりに使用している紙は、削り節の袋に貼るシールの台紙なんです。ロウが付いているのでよく燃えるんですよ」。


急造庫(きゅうぞうこ)と呼ばれる場所へ、節を移します。一つひとつ手作業で鉄のせいろに置き直し、その際に、骨の抜き残しがないか、状態が悪くないかも目視でチェックしていきます。急造庫の中でも薪を焼べ、ここで実に1か月以上かけて燻し続けていきます。急造庫の中は4階層に分かれており、少しずつ上階層で上げることで燻しの具合を調整していきます。状態を見ながら、位置を入れ替えたり、薪の調整をしたりと非常に手間がかかっていることが伝わってきます。
「休ませて、汗をかかせて、そしてまた火を入れての繰り返しです。場所によって火の入り具合が違うので、そこは人の目で判断して、位置を入れ替えていきます」。


急造庫から出されたものを1本1本、専属の職人が選別し、荒節が完成。燻しの香りが強いかつお節削りができあがります。香りがしっかり欲しいラーメンや蕎麦などのつゆには、この荒節を使うお店が多いとのことです。

かつお節全体の1割ほどしかつくられていない。さらに手間暇かけてつくる枯節。




形状・品質が良い荒節は、表面の黒い部分を削り、そこからさらにカビ付けし天日干しという工程を何度も繰り返して「枯節」に仕上げます。枯節は、脂が分解され、水分もなくなり、まろやかな味に仕上がります。料亭で使用されるような上品な味のかつお節に。お店によっては荒節と枯節を混ぜて使用するところもあるようです。
「日照時間が長い焼津は、かつお節を干すのに最適。今では、このカビ付けをした枯節をつくるところはずいぶん減りました。9割以上は荒節ではないでしょうか。うちのかつお節でもカビ付けするのは全体の1割程度です」。

日本の伝統食・かつお節を次世代に伝えていくために。





出来上がった荒節や枯節は、ふわふわに削られ、かつお削り節として袋詰めされます。削り立てのかつお節は香りも味もとても豊かです。かつお節は削ったところから酸化していくため、次第に風味が失われていきます。そのため、かつお節はチッ素ガスを充填して販売されているのです。
「最近はかつお節を削りたいという親子連れや、若い方が増えてきていますね。削り器を持って教えてくれってきますね。そういう方が増えるのは嬉しい」。
「やまじゅう」では月1回、工場見学デーを設けたり、工場内でマルシェを開催したりするなど、一般の方にも昔ながらのかつお節づくりを伝えています。かつお節は、ご飯にかけて醤油を少し垂らしていただくのが一番おいしい食べ方とのこと。荒節と枯節の両方のかつお節を購入してみて、その味の違いを楽しんでみるのもおすすめです。


やまじゅう(ヤマ十増田商店)
[住所]静岡県焼津市小川新町5-4-9
[TEL]054-628-3677
[URL]https://www.yama10.jp


生産者に会いに行き、材料を調達。地元の食材を最高の天ぷらに仕上げる「なかむら」。




JR焼津駅から徒歩2分。「なかむら」は静岡市葵区にある天ぷらの名店「成生(なるせ)」で修行した店主の中村友紀さんが2023年5月にオープンした天ぷら店です。
魚は、焼津の「サスエ前田魚店」から仕入れ、野菜は中村さん自ら農園を訪れ収穫した野菜をはじめ、家康公も食べていたとされる静岡市産のあさはた蓮根、静岡市葵区の大川地区や川根エリアのお茶、掛川の「栄醤油醸造」の醤油、藤枝の「喜久酔」「杉錦」・焼津の「磯自慢」といった地酒など、焼津近隣エリアのものを中心に使用しています。


そんな「なかむら」の天つゆ、天茶漬け、酢の物などのだしに使用しているのが、「やまじゅう」のかつお節。 「だしに使うなら『やまじゅう』さんのかつお節が一番いいと聞き、それからずっと使い続けています」。
使用しているのは、「やまじゅう」の本枯節。血合いの具合、削りの幅等を独自に調整してもらい、だしの香りが立つように削ってもらっています。血合いの具合は、どうしても部位によって異なるので、かつお節の状態を見極め、温度、時間を都度調整しながらだしをとっていきます。



「『やまじゅう』さんのかつお節は本当においしい。旨み、味、香りが違います。そして、本当に真面目にやっているかつお節屋さんです。魚、野菜に関してもそうですが、自分の場合、モノとお金の取引ではなく、人と人とのつながりを大事にしています。ですので、食材の仕入先を決める際には必ず毎回お店を訪れ、コミュニケーションをとるようにしていますね」。
「なかむら」の天ぷらはもちろん、天つゆにもぜひ注目してみてくださいね。




なかむら
[住所]静岡県焼津市栄町2丁目4−8
[TEL]054-639-6613
[URL]https://www.instagram.com/naka_mura.yaizu/

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