ららら紀行

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豊かな海の恵みを未来に繋ぐ三保松さばと缶詰 〜港町清水・今昔物語〜
#中部  #清水  #三保松さば  #ツナ缶  

生で食べられる!?清らかな地下海水が育む「三保松さば」



そこでしか食べられないもの。わざわざそこまで行かなければ出会えない、その土地ならではの味。
自他共に認める食いしん坊な私は、旅の醍醐味は美味しいものとの出会いだと思っています。そこで出会える景色や人々。どんな歴史や文化、想いがその食べ物に込められているのか。そんなお話しまで伺えたら、その体験は、たとえ数時間であったとしても「旅」と言えるのではないでしょうか。

インターネットでポチッとすれば、日本中どころか世界中の美味しいものを手に入れることもできます。スーパーに行けば、季節や旬に関係なく様々な食材が並んでいます。様々な技術革新や品種改良、冷凍・冷蔵技術、飛行機や鉄道、トラック輸送など物流の飛躍的な進化のおかげで、居ながらにして美味しいモノに出会える機会も格段に増えています。
でも、そんな便利な世の中になっても、わざわざその土地まで出向かなければ食べることができないモノがまだある。そんな食材を求めて静岡市、旧清水市へ「旅」に出ました。

日本のツナ缶発祥の地、清水



近年、⼤型客船も次々と寄港する清⽔港。雄⼤な富⼠を望む港からの景⾊は、客船クルーズの⽬⽟だそう。

静岡県静岡市清水区。晴れた日には世界遺産の富士山を正面に望み、神戸、長崎と並ぶ日本三大美港と言われる清水港は、冷凍まぐろの水揚げ量日本一の港としても知られています。
清水港や近隣の焼津港で水揚げされたものの、廃棄されることも多かったまぐろを缶に詰め、備蓄食にできないかと考えられたのが清水のツナ缶製造の始まりです。冷蔵・冷凍技術がまだ発達していなかった 昭和4年(1929 年)のことでした。

不揃いなまぐろの切り身をキッチリと缶に詰め、油で漬けた丁寧な作業はもちろん、味の評価も高かった清水生まれのツナ缶は、アメリカを中心に輸出され、ほどなくお茶と並ぶ清水港の重要輸出品になりました。以降、次々と缶詰メーカーが設立され、清水の主要産業のひとつになったのです。
ツナ缶を製造する過程で出るまぐろの残渣は飼料や肥料に加工され、これも静岡の主要な農産物であるみかんやお茶の畑で使用されてきました。SDGsという言葉が無かった時代から、ここ清水では無駄を出さず、持続可能な「おいしい循環」が成立していたんですね。
令和 3 年における全国のまぐろ類缶詰の生産量21,582.8トン。そのうち、静岡県の生産量は21,034.2トンで全国1位。なんと全国シェアの97%が静岡県産ということになります。
そんな缶詰の街・清水が可視化され、実感できる場所がエスパルスドリームプラザ内にあります。

あの缶詰も、清水生まれでした




「観光客はもちろん、地元の方にももっと缶詰の魅力を知っていただきたい」という担当者の熱い想いから平成27年10月にオープンした「清水かんづめ市場」。
旧清水市にはいまでも十社以上の缶詰製造会社があるそうですが、それらの商品がほぼ一堂に、全部で100種類以上も並ぶ様子はまさに圧巻です!普段何気なくスーパーで見ている缶詰ですが、こんなに種類があったのかと驚かれるのではないでしょうか。ちなみにツナ缶だけではなく、誰もが一度は食べたことがあるであろう、あの焼き鳥やみかんの缶詰も清水生まれです。


NASA 公認の宇宙⾷にも認定された“あの”焼き⿃の⽸詰も清⽔⽣まれ。
一本釣りされた夏のまぐろを使用し、選ばれた職人さんが手作業で製造するという、1缶 5,000円の最高級のツナ缶や、釜揚げしらすや桜海老などの静岡の特産品、静岡おでんや富士宮焼きそばなど、ご当地グルメの缶詰まであります。眺めているだけでも楽しいのですが、「こんなものまで缶詰にできるのか!」と缶詰に無限の可能性を感じました。
そういえば、ニュースにもなりましたが、あのおなじみの焼き鳥の缶詰は宇宙食にもなっています。いまや清水生まれの缶詰は、世界だけではなく宇宙にまで進出しているのです。


ラインナップに多少の⼊れ替えはあるが、常に 100 種類以上の⽸詰が揃っているそう。
運営する株式会社ドリームプラザの方にお話を伺いました。

「最近では防災意識の高まりから缶詰を見直す方も増えていますし、コロナ禍以降のおひとりさまキャンプ需要でも缶詰が注目されています。それに伴って味つけにこだわるものや、ツナやさばなどの水産加工品だけではなく、カレーや焼きそばなどの料理、さらにはバウムクーヘンのようなお菓子まで、多種多様なものが缶詰になっています。もちろん観光客の方もいらっしゃいますが、“ここにならこの商品がある”と買いに来てくださったり、帰省などの手土産に“話題になるから”とお買い求めいただいたり、と地元のお客様も多いんですよ。」
かくいう私も、あるツナ缶の大ファン。大手メーカーのものではないため、なかなかスーパーなどには商品が置いていないのですが、ここに来れば買えるからと何度も買い求めに来ています。今後も施設内にあるビュッフェレストランでのツナ缶を使ったレシピのフェアや、缶詰王国静岡をテーマにした見本市のようなイベントも開催予定というから楽しみです。

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清水かんづめ市場
[住所]静岡県静岡市清水区入船町 13-15
エスパルスドリームプラザ 1F 清水いりふね通り内
[営業時間]10:00〜20:00/入館料無料
[TEL]054-376-6181(駿河みのり市場)
[URL]https://www.dream-plaza.co.jp/shop/1570/
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エコでサスティナブルな陸上養殖



冷凍まぐろの水揚げとツナ缶の製造を柱とした水産業が他の産業も支え、発展してきた街・清水。しかし、いま漁業は日本に限らず、世界中で岐路に立たされています。
温暖化や自然破壊による環境変化の影響もあり、限りある水産資源と持続可能な漁業の実現が望まれる中、ここ数年新たなご当地名物として注目されているのが、三保半島の地下海水を汲み上げ育てる陸上養殖のサーモンやさばです。

三保半島は、安倍川から流れ出た砂や石が駿河湾の海流に流され滞積してできた「砂嘴(さし)」と呼ばれる地形。砂や石が天然のフィルターとなって海水を濾過するため、井戸を掘ると真水では無く、澄み切った海水が汲み上げられるそうです。

「三保の地下海水は、豊富なミネラルと栄養素に加え、水温が 1 年を通して一定なんです。しかも、無菌・無酸素状態です。無菌で水温が一定ということは、加熱や冷却、殺菌などの設備や電力も必要ありません。無酸素ということは、アニサキスなどの寄生虫も存在しません。30m程掘った井戸から汲み上げた地下海水に弊社の技術で酸素を加え、かけ流し状態にして、魚の糞やエサの残りを取り除いてから海に戻しています。
市場に出回る魚には天然魚、海面養殖魚、陸上養殖魚があります。陸上養殖の中には、卵や稚魚は海や川など自然界から採取するものもありますが、ここでは陸上で育てた魚から採取した卵をふ化させた稚魚を使っていますし、エサも生餌ではなく厳選したものを、大きさや生育状況に応じて与えています。
その結果、トレーサビリティが確証されて、生育期間のどこにおいても、寄生虫やウィルスなどが入らずに生育、出荷できるため、アニサキスなどの寄生虫の心配がなく、安心して生で召し上がっていただける魚を育てられるのです。」


エサは⿂の状態にあわせて、量・回数をきめこまかく調整して与えている。
お話しを伺ったのは、日建リース工業株式会社で養殖事業を担当されている髙橋亮平さん。
日建リースと言えば、建設用の仮設機材等のレンタル事業の会社のイメージなのですが、一体なぜ、ここ三保の地で陸上養殖に携わっているのでしょうか。

「元々はナノバブル水(水の中にナノバブル化した酸素を封入した水。ナノバブルとは1mmの1万分の1サイズ以下の超微細気泡のこと)の製造販売事業でした。次にその水を活かした魚活 BOX(鮮魚輸送機器) を開発・事業化する中で、三保の地下海水を研究されていた東海大学の秋山教授とご縁ができ、陸上養殖に関する共同研究が始まったんです。」

令和2年、水産業界への進出を加速させ、自社の養殖場が完成、静岡市や商工会議所とも連携し事業化。約2年の試行錯誤を経て、令和3年暮れに最初の陸上養殖魚=三保サーモンの出荷がスタートしました。

白子も肝も食べられる!?三保松さばの誕生



1年を通してほぼ⼀定の⽔温を保つ三保の地下海⽔。
「秋山教授と共同で研究していた井戸はここから100mも離れていないのですが、汲み上げた地下水の水温が18度でした。18度の水温に適した魚種としてサーモンがよかろうとスタートしたのですが、事業を本格化させるにあたり、自社の井戸を掘ったところ、水温が19度だったんですね。この1度の違いが魚にとっては大きいんです。
私たちが毎日40度の気温の中で過ごすようなもの。毎日続けば、生きてはいられるけど、疲れやすくなったり病気になりやすくなったりしますよね。
そこで、19度の温度に適した魚は何だろうと。いくつか候補はあったのですが、陸上養殖のメリットを最大限に活かせる魚として選んだのが、生で食べることはほとんどないさばでした。」

さばといえば、「足がはやい(傷みやすい)」魚の代表格。またアニサキスによる食中毒の原因になることも多く、生で食べることは避ける魚のイメージです。水温や水質が変わらない無菌状態の安定した地下海水で、徹底的に管理したエサと環境で育てるさばだから、アニサキスの心配も無く、安心して生で食べられる。しかも、このさば、なんと肝や白子まで食べることができると言います。
世界文化遺産富士山の構成資産である三保松原(みほのまつばら)のように、この地域を代表するような名産品に育ちますように、との願いを込めて「三保松さば(みほのまつさば)」と名付けられたこのさばは、約1年かけて生育され、250g以上の大きさになったら出荷されます。

養殖魚の価値向上を目指し「そこでしか食べられない魚」を届ける



特別に許可をいただいて、さばやサーモンが育つ施設内を見学させていただきました。

巨⼤なテントの中にずらりと並ぶ⽔槽。
足下を消毒して巨大なテントの中に入ると、魚の養殖場として想像していた磯臭さや生臭さは一切感じられません。室内の温度もできるだけ一定に保たれているそうで、外は灼熱のような暑さの日でしたが、日陰であることも含め、さほど暑さを感じませんでした。そこに直径 5mと7 mの円形のプールが 10 個並び、それぞれ生育期間ごとに分けられたさば、サーモン、さらには試験飼育中の魚が何種類か泳いでいました。
エサをもらえると思ったのか、小さな稚魚たちは近づいてきましたが、出荷が近いサイズのさばは、群れでぐるぐると旋回しつつ、少しずつ私たちから遠ざかっていくようです。

「稚魚の頃は人間の赤ちゃんと同じで一度にたくさん食べられないので、1 日に何回にも分けてエサをあげるんです。小さい頃は人なつこいのですが、だんだん警戒心が強くなるんです。エサの時間もあまり寄ってこなくなりますし、本社や視察の方が来ると白いシャツが見慣れないからなのか、水槽の真ん中に集まってしまい縁には近寄ってきません。人間の思春期みたいですよ(笑)。」



思春期(!?)のさばたちに「驚かせてごめんなさいね」と心の中でわびながら、そ~っと水槽をのぞかせていただきました。
中には数え切れない数のさばが反時計回りにぐるぐるぐるぐるぐるぐる。なかなかのスピードで泳いでいて、中央には渦巻きができています。真さば特有の青緑のまだら模様が時折、キラッと輝き、なんて美しいこと!
いつまでも飽きずに見ていられそうでしたが、タモを使って水揚げをすると、その時逃れた魚もストレスを感じてしまい、出荷が続くとあまり大きくならなくなってしまうほど繊細なさばたち。
これ以上ストレスを感じさせないためにも、早めにその場を離れました。

「プランクトンのいない地下海水では、エサ以外には栄養を摂取しないんです。でも、さばは常に回遊しているから運動量がものすごいんですよ。そのためある程度の大きさになるとそれ以上大きくなりません。天然魚や海面養殖魚に比べると、型が小さいのも三保松さばの特徴です。
安心安全に、最高の鮮度で食べていただくために、絞めたてにもこだわっています。出荷数がまだ限られていることもありますが、取り扱っていただくお店も制限させていただいていますし、完全予約制でお願いしているので、予約日に合わせて当日水揚げして出荷します。だからこそ、これ以上無い鮮度で提供できるのです。手間もかかっていますし、どうしても金額は高くなります。でも、それだけの価値のある魚だと自信を持って言えます。
残念ながら日本では旬の天然魚ほどには養殖魚は評価されていません。だからこそ、卵から管理をして完全なトレースが取れる陸上養殖魚に期待をしているんです。天然では出来ない、安心して生で食べられる魚を作ることで新しい価値を提供していき、最終的には養殖魚の価値向上を目指しています。」

地下海水は三保の宝



おすすめの三保松さばの食べ方を聞いてみました。

「肝や白子も食べさせる三保松さばは日本にも世界にも、他には無いと思います。ですから、まずはお刺身で味わっていただきたいです。軽く火がはいった状態も美味しいので、少し厚めに切ってサッとしゃぶしゃぶにするのもいいですね。」


⽇建リース⼯業株式会社で養殖事業を担当されている髙橋さん。
「地下海水は三保の宝です。こんなに素晴らしい水がこの半島の地下に流れていることをもっと知って欲しいですし、弊社だけではなく地元の方々にも陸上養殖事業が広まって、この地域全体の産業、名産になるといいなと思っています。
いま、稚魚は愛媛で生まれたものを使っていますが、ここの水槽の中で卵を採取するための魚も育てているので、来年以降は、完全三保生まれの三保松さばが誕生する予定です。
その日に水揚げしてその場で絞めたものを、地元の飲食店で食べられるのは最高の贅沢ですよね。“ここに来ないと食べられない”というとびきりの体験をぜひ多くの人にしてもらいたいです。」

最後に、ご出身は新潟で、今は東京から単身赴任中という髙橋さんから見た静岡・清水の魅力について伺ってみました。

「静岡は食材も自然も富士山もあって、本当に素晴らしい土地だと思います。だからこそ、その価値をもっと地元の人が意識して、もっとアピールしたらいいのに、と思うんですよね。 三保松さばをはじめとした陸上養殖の魚がその価値を高める一端になれるよう、私たちも安定した供給と、もっと様々な魚種を提供できるようにしていきたいと思っています。」

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三保地下海水養殖センター(日建リース工業株式会社)
※一般の見学は不可
[住所]静岡県静岡市清水区三保字池2733番2
[TEL]054-337-3120
[URL]https://miho-salmon.com/
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神秘的で厳かな「神の道」を歩く



さあ、いよいよ三保松さばを実食!といきたいところですが、予約した時間にはまだ早いので、三保松さばの名前の由来にもなっている三保松原(みほのまつばら)やその周辺をご案内しましょう。

能の「羽衣」の舞台となっている羽衣の松で知られる三保松原は、先ほどお邪魔した「三保地下海水養殖センター」から車で5分ほど。
天女の羽衣の切れ端と伝わる布片が所蔵されている御穂神社から、羽衣の松がある海岸近くまで「神の道」と呼ばれる松並木が 500m ほど続いています。松の木の保全対策として、根を踏まないように整備された板張りの歩道はバリアフリーなので、車椅子の方でも安心して通ることができます。

この神の道、ぜひゆっくりと歩いて欲しいスポットです。

両脇に立ち並ぶ松の木は樹齢200年から300年といわれる老木が多く、荘厳で清々しい雰囲気に満ち満ちています。羽衣の松を目印にこの地に降り立った神々が御穂神社に向かう際に通る道だと聞き、納得しました。三保松原にまつわる和歌や物語などの文学を楽しめるボードも点在しているのですが、古くは万葉集にも詠まれ、多くの文人墨客に愛された地であり景色であったことを実感できます。

神の道を進んだ先に、松原と海、富士山が織りなす景色が待っているのですが、実はこの日はあいにくの曇り空。富士山は完全に雲の中だったのです。でも、大丈夫。富士山や海が綺麗に見えない日でも楽しめる「みほしるべ」に立ち寄りましょう。

雨の日も、曇りの日も、三保松原と富士山を楽しめる場所


「みほしるべ」は、三保松原の文化的価値と松原保全の大切さをわかりやすくガイダンスし、次世代に引き継ぐための施設として、平成31年3月にオープンしました。 実は、(大変申し訳ないことに)しっかり施設を見学するのはこの日が初めてでした。
入館料が無料ということもあり、展示品などにあまり期待していなかったのですが、これが大きな間違いでした。施設自体は大きくはないのですが、見どころにあふれていました。



歌川広重の描いた富士山と三保松原に誘われるように、展示室へと向かいましょう。
足下には松葉をモチーフにした影絵のような照明、寄せては返す波の音、松の香りのアロマ・・・など、五感を刺激する仕掛けに期待が高まります。


その先、映像シアターの大きなスクリーンに映し出される富士山と三保松原の風景に息を飲みました。残念ながらこの日は肉眼では拝めなかった富士山を思いがけず独り占めです。しかも、真っ白な雪を抱いた富士山や、朝日に照らされる富士山など、プロカメラマンが撮影した最高の富士山に出会えるという贅沢な体験!
スクリーンでは、春夏秋冬、様々な表情を見せてくれる富士山に出会えるので、お気に入りの富士山を見つけて、次はその季節に再訪するのも良いかもしれません。
でも、1年365日、毎日富士山が見えるわけではありません。それでも、せっかく来たのだから、富士山を背景に写真を撮りたかった!という方も多いことでしょう。
そんな方こそ、ぜひ「みほしるべ」に立ち寄ってください。雨の日や曇りの日、霞がかかっている日でも、美しい富士山をバックに写真を撮ることができるパネルが展示室を出たところにあり、富士山と松原、そして海という、まさに白砂青松の最高のアングルで写真が撮れるんです。

せっかくここまで足を運んでくれたお客様に、少しでも喜んでもらいたいと願うスタッフの方々のおもてなしの心遣いをこのパネルから感じました。

多くの人に愛されてきた三保松原と富士山を実感する




見どころは映像シアターだけではありません。
展示室はいくつかのテーマに分かれ、三保松原の文化的価値についてわかりやすく説明されています。



富士山と三保松原、羽衣伝説を題材にした絵画などをデジタルアーカイブで観ることができるのですが、見たことのある浮世絵などの作品から初見のものまで、こんなにもたくさんの作品があるのかと驚かされます。夢中で次から次へとディスプレイをめくってしまいました。
また、室町時代に描かれたという国の重要文化財、富士山本宮浅間大社所蔵の「絹本著色富士曼荼羅図」の原寸大レプリカも見応え十分。当時の富士山信仰や登拝の様子を描いた曼荼羅図なのですが、三保松原が富士山へ参詣する過程を表す重要な霊地として描かれています。興津の清見寺も描かれていたり、舟に乗って参詣する人や、その舟客を相手にお茶を売る商売人が描かれていたり。実物をこんな風に間近でじっくり見ることはできないので、ここならではの体験ですね。

富士山が世界遺産に登録される際、距離が離れていることなどを理由に、三保松原を構成資産に含めるかどうか、議論になったことを覚えている方も多いでしょう。
しかし、三保松原は富士山信仰の一部として考えられ、「曼荼羅図」など信仰や参拝の様子が描かれた絵図の多くに描かれていること。日本最古の詩歌集「万葉集」に収められた歌や、葛飾北斎や歌川広重などの浮世絵の題材になるなど、芸術の源泉として多くの人々を魅了してきたこと。こうした富士山と三保松原との目に見えないつながりが認められ、大逆転で三保松原も構成資産として登録されたのです。
そのことを実感し、富士山と三保松原のつながりを改めて誇りに思えるような展示でした。

松原保全の大切さも学ぶ



2 階には植物としての松の紹介や松原の保全活動について紹介する展示コーナーがあります。
ご案内くださった静岡市観光交流文化局文化財課の小林美沙子さんにお話を伺いました。
「松は栄養分が少なく乾燥した砂浜でも育ちます。一年中、緑の葉を保っていますが、古くなった葉は日々地面に落ちていきます。落ちた松葉がたまると土の栄養が豊かになり過ぎ、他の植物が育つことで松の生育に影響を与えてしまうんです。美しい松原の景観を保ち次世代に引き継ぐためには、松葉かきの作業がとても大事になります。
みほしるべの受付でお声がけいただければ、開館中であればいつでも熊手やゴミ袋などの道具を無料で貸出ししていますので、おひとりでも気軽に松葉かきの活動にご参加いただけます。また定期的に保全活動をしている市民団体のみなさんと一緒に活動することもできます。HP や SNS で情報を発信していますのでぜひチェックしてください。」




見えないのも一期一会の富士山



「この施設に配属されるまでは、富士山って毎日意識していませんでした。でも、季節や時間帯で富士山は違う表情を見せてくれるんです。見えないのもまた一期一会の富士山だと思っています。でも、富士山が見えていない日でも、海と松原の景色を見て、感動したと言ってくれる方も多いんです。」

見えないのも一期一会の富士山。小林さんの言葉が胸に響きました。
目には見えなくても確かにそこに富士山はあるのです。絶景は最高の思い出ですが、見ることが叶わなかった残念な体験も、あとで振り返れば大切な思い出。笑い話になったり、「また行こうね」という約束につながったりもしますよね。

最後に小林さんに三保半島の楽しみ方について伺いました。

「河岸の市や日の出ふ頭から出ている水上バスに乗って、海から三保半島に訪れるアプローチも、昔の人たちの三保の楽しみ方に似て風流だと思います。実は三保半島は温暖な気候と砂地という特色を利用してトマトや枝豆、折戸なすなどの農業も盛んなんです。無人販売所もあちこちにあるので、散策しながらの買い物も楽しいんですよ。富士山のビュースポットもたくさんあります。羽衣の松だけじゃ無く、いろいろな角度から半島全体を楽しんでもらいたいですね。
その楽しみ方の”道しるべ”としても、”みほしるべ“があれたらなと思っています。」

海からのアプローチ!確かに水上バスから見る富士山や三保半島の景色は、また素晴らしい体験になることでしょう。松葉かきのお手伝いもしてみたいですし、次にまた訪れる楽しみができました。

「ここでしか買えない」が詰まったミュージアムショップも必見




展示を見たあとは、富士山、三保松原、松をイメージした材料や食材、デザインなど、ストーリー性のある商品をセレクトしたミュージアムショップも必見です。 オリジナル商品も多く、“ここでしか買えない“が詰まった宝箱のようなショップです。

売れ筋商品は地元銘菓のミュージアムショップ限定パッケージ、オリジナル T シャツ、最近増えているインバウンドのお客様には富士山のポストカードも人気とのことですが、私が気になったのは、「みほのまつがみ」を使ったしおりやレターセットです。

ミュージアムショップの運営をされている株式会社 Otono の青木真咲代表にお話を伺いました。

「松原の保全のために松葉かきの活動をしていますが、その枯れ松葉をただ捨ててしまうのでは、未来につながらないんですよね。そこで、松の落ち葉を再生できないかと、松葉を織り込んだ“みほのまつがみ”を開発しました。その紙を使ったレターセットや折り紙がありますが、中でもお値段も手頃なしおりが人気です。」




他にも、施設のロゴが入った商品は売上げの一部が保全活動に寄付されるそうです。
時間的や体力的に松葉かきに参加できないとしても、お土産を買うことで松原の保全に役立つことができるとしたら嬉しいですね。

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静岡市三保松原文化創造センター 「みほしるべ」
[住所]静岡県静岡市清水区三保 1338-45
[営業時間]9:00~16:30/入館料無料
[TEL]054-340-2100
[URL]https://miho-no-matsubara.jp/center みほしるべミュージアムショップ
[URL]https://otono.site/mihomuseumshop/
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ついに、三保松さばを食す!





じっくりと三保の魅力に触れたところで、食事の予約をしていた時間が近づきました。
「みほしるべ」からは車で清水の市街地方面へ 15 分ほど「なすび総本店」さんに向かいます。

「なすび」グループは、静岡市内を中心に何店舗かお店がありますが、生産量にも限りがあるので、三保松さばを取り扱っているのは、現在、総本店を含め3店舗とのこと。

早速ですが、料理歴30年という服部料理長に三保松さばについて伺ってみると、
「え!?なにコレ!?」
最初は、強い衝撃を受けたのだそう。

「それまでさばに持っていたイメージや概念が通用しませんでしたね。これはさばであってさばじゃ無い。予約時間にあわせて水揚げし、その場で締めて店に届くので、まず鮮度が全く違います。
無菌の地下海水で、卵から地上で育てている安心、安全なさばですから、自信を持って生で提供できますし、白子や肝まで余さず提供できるのは、料理人から考えてもすごいことです。」



三保松さばを扱うことが決まり、グループの総料理長の元で様々な調理法や料理を試行錯誤したそうなのですが、このさばならではの食べ方として考えられたのが白子や肝も食べられる氷室盛りです。
そして、ブルーレアと名付けられた揚げ物も独自のメニューとのことで、その2品をいただきました。

衝撃の三保松さば




まずは、氷室盛りからいただきます。
氷の中からさばを見つけるという演出に清涼感と遊び心を感じます。そして、氷から掘り出したさばの、なんて美しいこと!
お刺身の角がたっていて、淡いピンク色の身は、見ただけでも新鮮さが分かります。刺身だけじゃなく、肝も白子も、キトッと、プリッとした感触がお箸からも伝わってきます。



最初にそのままお醤油もつけずにいただきましたが、白子も肝も、身にも生臭さが一切無い!
お刺身は、吸い付くような弾力と歯切れの良さ。何もつけていないのに、魚の身にうま味を感じられるのは、食べているエサの良さ故でしょうか。
「肝を醤油に溶いて肝醤油にして、さばの身で白子を巻いて召し上がってみてください。」
とオススメいただいたので、醤油に肝を溶かしたいのに、新鮮すぎて肝が全然溶けないほどプリップリです。





肝を溶くことは諦めて、身に乗せてパクリ。
服部料理長もおっしゃっていましたが、これは、いったい何でしょう!?

うま味や甘さも感じられる身は、鯛やふぐのような、上品な白身に近いかもしれませんが、これは青魚のさばのはず。そう、さばのはずなのに、記憶にあるさばとは全く別物なのです。
程よく脂の乗ったさばの身はシャキッと、白子はまったりと、肝はプリッと。3 種のおいしさと食感のアンサンブルが口の中に広がる。本当に初めての味わいです。

もう一品のブルーレアは「瞬間揚げ」とメニュー名についているほど、時間が命。
生で食べられる三保松さばの特徴を活かし、衣をつけたさばの半身を200度の高温で10秒だけ揚げることで、芯は、ほぼ刺身のレア状態ながら、衣は熱々サクサク、の食感の違いと温度差も楽しめます。





お刺身同様、こちらも醤油や塩、タルタルソースをつけなくても、魚そのものに味があるように感じました。ほんのりと火が通った身は、ふかふかでふわふわで、ふうわりと口の中でとろけました。
先ほどいただいたキットキトのお刺身とはまた全然違う食感と美味しさです。

「ここでしか食べられない」という最高の贅沢体験



これまでさばの白子や肝を生で食べたことが無いため、比べようがないのですが、これはまさに唯一無二の味。この地を訪れなければ食べられない、「ここでしか食べられない」体験は最高の贅沢です。

お客様の反応について、清水地区総店長の板東亮介さんは、
「みなさん、まずは生で食べられることに驚かれますね。昨年から提供していますが、非情に反響が大きく、今年の販売を待ちかねていたお客様もいらっしゃいました。生育に時間もかかることもあって、なかなか生産数が追いつかないため、いまはまだ期間限定、完全予約制でのご提供となっています。
1年を通して安定的に供給できて、お客様に召し上がっていただけることを期待しています。
他の魚種も試験的に育っていると聞いていますので、これからどんな陸上養殖魚に出会えるのか、そしてお客様にご提供できるのかも楽しみにしているんです。」



とお話してくださいました。

なすびグループは、創業当初から地産地消に取り組んでいるため、今回の三保松さば以外にも地場の食材や地酒など積極的に取り扱っていらっしゃいます。遠方からのお客様に静岡・清水の味を食べてもらいたい時に、私も使わせてもらうお店のひとつです。
最近では、インバウンドの影響で海外からのお客様も増えてきているそうです。この日も、駐車場には他県ナンバーの車や、外国人のお客様をご案内されたご家族連れも見かけました。
こちらのお店の名物でもある、大きな海老フライや牡蠣フライに目を輝かせ、嬉しそうにスマホのカメラを向けているお客様もいらっしゃいました。
食事って、美味しさはもちろんですが、発見や感動、体験を味わうことでもあるんですよね。それをひっくるめての「美味しさ」なのだと思います。
三保松さばをはじめとする三保生まれの魚も、日本中はもちろん、海外からも、わざわざ食べに来る価値のあるモノとしてもっともっと拡がることを願います。

どんなに便利な時代になっても「そこでしか食べられない」美味しさが、清水にありました。

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なすび総本店
[住所]〒424-0941 静岡県静岡市清水区富士見町5−8
[営業時間]11:30~14:30 / 17:00~21:30
[定休日]火曜日
[TEL]054-352-1006
[URL]https://www.nasubi-ltd.co.jp/
※三保松さばは 7~8 月の限定メニューのため、次回の販売はHP等でご確認ください。
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