ららら紀行

0023
自然の恵みを味わう-イズシカ料理とクラフトビール
#ビール  #修善寺  #ジビエ  #伊豆  
伊豆半島の中心部に位置する伊豆市は、海や山に囲まれた風光明媚な景観が広がるまち。
日本一の名水百選にも選ばれた「河津七滝(かわづななだる)」をはじめ、さまざまな名所が点在。修善寺温泉や湯ヶ島温泉など、温泉郷も豊富で県内外から多くの人々が訪れる観光地です。
また、静岡県内屈指の「食の宝庫」でもあり、海の幸・山の幸で溢れています。
今回は、そんな食の宝庫・伊豆市で、新たな食材として注目されている「イズシカ」を求め、足を運んできました。
食用として活用され始めたきっかけや、それに取り組む方たちの苦悩。
そんなお話も伺いながら、新しい食との出会いを楽しみます。


豊かな自然が広がる伊豆市

森の生態系、経済にも影響を及ぼす「ニホンジカ」


自然豊かな伊豆市は、かつてはウサギや鳥も多く生息しており、生態系も豊かでした。
その生態系が崩れ始めたのは、1980年代以降。ニホンジカが増殖し、環境問題が顕著になり始めました。

ニホンジカは森林内の若木や低木の新芽、草や植物の葉などを好んで食べるため、若木が育たなくなり、樹木の再生力が低下する「食害」を引き起こします。さらに、草本植物が減少することで、生態系全体のバランス崩壊にも影響を与えます。
農業被害も深刻化し、農業従事者にとっては収入面にも大きな打撃を与えており、シカによる経済損失は年間1億円。地域の経済にとっても深刻な問題です。

また、伊豆市を含む伊豆半島は、ワナや猟銃などで捕獲をしていましたが、捕獲後の処理にも頭を悩ませていたそうです。


伊豆の山に生息するイズシカの群れ

「命を無駄にしない」シカ肉の活用に向けた自治体と地元事業者の協力


こうしたニホンジカによるさまざまな問題をきかっけに、自治体や地元の事業者が協力して動き始めます。
当初は、捕獲したシカは一部狩猟者周辺で自家消費されるものの、そのほとんどが山地へ埋設処分されていました。
「人間の暮らしを守るために捕獲されたシカの命を無駄にしないため、食品として生かしたい。」という考えのもと、平成21年度から市営の食肉加工センター設置のために本格的に始動し、2011年4月に伊豆市食肉加工センター『イズシカ問屋』が設立されました。

イズシカ肉のイメージを変える挑戦
-『イズシカ問屋』の徹底管理と低温熟成技術


地元の新鮮野菜、食材を購入できるお店として人気の『大地讃頌(ヤマモトフードセンター)』代表で、伊豆市商工会青年部の有志によって設立された団体『イズシカファンクラブ』会長も務める山本さんに、イズシカの活用について伺いました。


大地讃頌(ヤマモトフードセンター)代表の山本さん

「シカ肉=硬い、臭みやクセが強いというイメージを払拭したいという思いから、研究を重ねました。イズシカを食べた人は、やわらかい!臭みやクセがない!美味しい!と言ってくれます。」と嬉しそうに語る山本さん。
その秘密は、伊豆市食肉加工センター『イズシカ問屋』の徹底した管理システムと低温熟成にあると言います。


徹底した管理システムでおいしさが保たれる「イズシカ問屋」のシカ肉

「捕獲されたシカを2時間以内に処理し、保水に配慮した熟成方法でタンパク質やアミノ酸の旨みを引き出すことで、美味しいシカ肉を提供できています。正しく、丁寧に加工処理をすればシカは美味しく食べられる。ぜひ皆さんに食べてほしいです。」


低温熟成されるシカ肉

料理人でないと調理が難しいと一般の家庭では手が出ないジビエ。
手軽に食卓に並べてもらえるよう加工食品の開発もされており、山本さんをはじめ、シカ肉普及に尽力される方々の強い思いが感じられました。

シカは食用で使用できるのは全体の一部で、歩留まりが低い。
1体丸ごと活用することにこだわり、臓物をペットフードに再利用したり、角や皮を小物やアクセサリーに加工したりと、シカの命を無駄にしないために試行錯誤されています。
その結果、伊豆市では全国的にもトップレベルの有効活用率を誇っているのです。

赤身肉の旨味を活かした「イズシカジャーキー」が大人気!


イズシカは、ほかのシカ肉と比べて赤みが多く、淡泊ななかに感じる熟成された旨味が特長。
脂肪分やコレステロールが少なく、牛や豚と比べたんぱく質も豊富です。鉄分も牛肉の2倍含まれており、ヘルシーで栄養価が高い食材として注目されています。

そんなイズシカ肉の特長をもっと活かせる商品はないか…と考え、『イズシカジャーキー』を試しに作ってみました。

「脂肪分の少ない赤身肉、食感。イズシカの良さがジャーキーにぴったりで、思った以上の注文に人気殺到。今では一番人気の商品になっています」と山本さん。

生産が追い付かないほどの人気商品とのことで、これはぜひ食べてみたい逸品です。


「イズシカ」の人気商品

大地讃頌(ヤマモトフードセンター)では、ジャーキーをはじめ、サラミやウィンナーソーセージなど、自慢のイズシカ加工品を販売されています。
地元の方々が丹精込めて育てた野菜やフルーツなどを、新鮮なうちに食べてもらいたい、という思いで、イズシカ・ジビエだけでなく、伊豆の旬な食材を豊富に揃えています。
伊豆の美味しい食材を求める方に、ぜひ訪れていただきたいお店です。

「今後も、イズシカの普及活動をはじめ、ヘルシー食材・イズシカ肉の商品開発も積極的に取り組んでいきたい。」と意気込みを語ってくださいました。


イズシカ・ジビエと伊豆の食材を豊富にそろえた店内

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大地讃頌(ヤマモトフードセンター)
[住所]静岡県伊豆市下船原6-1
[営業時間]9:00~18:30
[定休日]日曜日
[TEL]0558-87-0818
[URL]https://www.izushika.com/
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大地讃頌(ヤマモトフードセンター)


イズシカのプロである山本さんが大絶賛するイズシカジャーキーがどうしても食べたい!
せっかくなら、伊豆の美味しい水で造るクラフトビールと一緒に楽しみたい!と、どちらも楽しめるお店へ。
向かった先は、大地讃頌(ヤマモトフードセンター)から車で5分ほど、清らかな狩野川のほとりに建つ『ベアード・ブルワリーガーデン修善寺』。
修善寺の主要地域から少し離れた、自然豊かな場所に建つ農園型醸造所です。
クラフトビールの聖地としても有名な静岡県ですが、その中でも屈指の規模感を誇る大型ブルワリー。


自然の中にひっそりと佇む醸造場

自然と共に育む「ベアードブルーイング」


2000年、ブライアン・ベアードさんとさゆり夫人によって設立された「ベアードブルーイング」。沼津市の漁港にある小さなビール醸造所とタップルームからスタートされました。
創業以来、「ホップや酵母、モルトなどの原材料をできるだけ加工せず、素材の良さを最大限に引き出す」という信念のもと、その地域ならではの特長を生かした個性豊かなビールを造り続けています。

その後、修善寺の豊かな風土に魅了され、2014年に現在の伊豆市修善寺地区の伊豆市大平に「ベアード・ブルワリーガーデン修善寺」を移転。

およそ3ヘクタールの広大な敷地には、タップルームを備えたクラフトビール醸造所と農園も併設しています。
2018年には、遠方から足を運ぶ方にもゆっくりとビールを楽しんでもらえるようにと、キャンプ場『キャンプ・ベアード』もオープン。
自然の中でクラフトビールを存分に楽しめるこの場所は、週末に多くのキャンパーが訪れる人気のキャンプ場です。


広々としたキャンプ場「キャンプ・ベアード」

工場見学で知る、持続可能なビール造り


工場見学もできるとのことで、見学しながらベアードブルーイングのクラフトビール造りのこだわりを伺いました。

『醸造工程で発生する熱源の再利用』
『川の水よりもさらにきれいな水にして川へ放出』
『麦芽やホップの粕を自然肥料として再利用』
など、世界最高水準の醸造設備によって、サスティナブルなビール造りを可能にしています。


清潔に管理されている醸造設備
左上:巨大な発酵タンク 右上:ドイツ製の仕込釜
左下:麦汁を作るタンク“マッシュケトル” 右下:醸造設備の見学


ビールの生命線「水」の質へのこだわり


ビール造りに欠かせないのは、ビールの原材料の90%以上を占める『水の質』。
「水はビールの生命」と語るほど、その土地の水がビール造りに合っているのかということが重要。
造る場所はとても大切で、その土地の水によってビールに個性をもたらすのだそう。


醸造場の横を流れる狩野川

修善寺の豊かな自然から湧き出る水は、やわらかでクリアな味わいを持ち、独特のコクやクリアな後味を作り出す鍵となっています。
そういった点も、この地に腰を据えた理由のひとつとなっているようです。

その後は広大な農園にもお邪魔させていただきました。
初めて間近で見るホップの栽培。数メートルの高さまで伸びたつるが圧巻です。
ここでは、ホップ以外にも、果物や野菜も栽培されています。


ビール造りに使われるホップ

化学肥料や農薬を一切使用しない自然農法を取り入れ栽培されており、手間のかかる栽培方法ではあるものの、優しくフルーティーで素朴なホップを育てるために欠かせないのだそう。
ビールへの愛から生まれる努力が良質なホップを作り出しているのです。

クラフトビールとイズシカで伊豆の自然を満喫


お待ちかねのビールをいただきに、3階のテイスティングルーム「ブルワリーガーデンタップルーム」へ。

作りたてのビールやビールにピッタリのフードが楽しめるタップルーム

カウンター内にずらっと並ぶ20個のビアタップが目に入ります。
醸造したての約20種類ものクラフトビールが飲めるということで、ビール好きの期待感が増します。
狩野川の西側には、美しく、のどかな風景を眺めながらビールを楽しめるデッキも。

今回はこのビアデッキで、『ライジングサンペールエール』と『シカジャーキー・シカソーセージ』をいただきます。


ビールとシカジャーキーは相性抜群!

見た目でもわかる泡のきめ細かさに驚きつつ、まずはできたてのクラフトビールをいただきます。
炭酸ガスを人工的に注入する一般のビールとは、舌触りが全く違う!ビール酵母の発酵の力だけでこのきめ細かな気泡ができているとは驚き。
鼻を抜ける香りと苦み、さわやかな後味が最高です。


注ぎたてのビールは見た目・味ともに絶品!

続いて念願のシカジャーキー。
口に入れた瞬間に広がるスモーキーな香り。臭みが全くなく、噛めば噛むほど旨味があふれ出します。
ほのかに香る鹿肉独特の香りと程よい硬さも、シカジャーキー特有の美味しさです。
鹿肉と聞くと臭みやクセが強いイメージでしたが、どちらも熟成された旨味がたっぷりで、これまでのイメージが覆され、もちろん、ビールとの相性も抜群でした。


左:シカソーセージ 右:シカジャーキー
ベアード・ブルワリーガーデン修善寺では、食事やおつまみの持込もOKとのことなので、『大地讃頌』でお気に入りのおつまみを買って訪れるのも良さそうです。

今回出会ったイズシカとクラフトビール。
どちらも「地域を良くしよう」「自然を守りたい」という思いから生まれた、伊豆の地が作った逸品でした。
伊豆の良質な水や豊かな自然が生み出す、伊豆ならではの美味しさをぜひ味わっていただきたいです。


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ベアード・ブルワリーガーデン修善寺
[住所]静岡県伊豆市大平1052
[営業時間]日曜~木曜/10:00~19:00 金曜・土曜/10:00~20:00
[TEL]0558-73-1225
[URL]https://bairdbeer.com/ja/brewery-gardens-2/

[工場見学]
日程/金・土・日
時間/①12:00 ②14:00(1日2回)
所要時間/30分程度
料金/20歳以上 1人500円(試飲なし)・20歳未満 無料
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ベアード・ブルワリーガーデン修善寺
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