ららら紀行

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世界に誇る風景と物語〜マリリン・モンローが食べたオムライス〜
#大室山  #オムライス  #伊豆  #伊東市  #川奈ホテル  
自然と文化が見事に調和する静岡県伊東市。市域のおよそ45%が富士箱根伊豆国立公園に指定されており、2018年4月には「伊豆半島ジオパーク」がユネスコ世界ジオパークに認定され、この地域の独自の地形や自然が国際的に認められています。
中でも、大室山や城ケ崎海岸の壮大な景観はすばらしく、伊豆スカイラインからの絶景も、訪れる人々を魅了する景勝地です。この地形や自然の恵みが生み出す食文化や産業、伝統文化にも多くの影響を与えています。

映画『君の名は。』で、瀧と三葉が巡り会えた、宮水神社のご神体の岩がある場所に似ている

大室山の絶景と空中散歩。リフトで楽しむ爽快なひととき


車で山道を進むと、お茶碗を逆さにしたような形をした「大室山」が目の前に現れます。
標高約580メートルの大室山。頂上へはリフトで向かいますが、頂上に近づくにつれ景色が変わり、見たことがない光景が広がります。空中をゆっくり進む心地よさを感じることができるでしょう。

大室山の歴史


大室山は約4,000年前の噴火によって形成されたスコリア丘で、伊豆東部火山群の中でも最大規模を誇ります。通常、スコリア丘は環境条件によって短期間で消失してしまうこともありますが、大室山は4,000年もの間、その姿を保ち続けており、国の天然記念物にも指定されています。
現在、山を保護するため徒歩での登山は禁止されていますが、頂上へのリフトは環境への負荷を抑えつつ、多くの人々が山の魅力に触れるために工夫された手段なのですね。
頂上に到着すると、眼前に広がる広大な景色。振り返れば雄大な富士山、反対側には駿河湾に浮かぶ伊豆諸島。その圧巻の眺望に心を奪われ、まさに絶景尽くしの瞬間を味わえます。

伝統行事「山焼き」 壮大な春の風物詩


大室山では毎年2月に700年もの歴史を持つ伝統行事「大室山の山焼き」が行われます。
大室山全体の草原に火を放ち、一斉に山肌を焼き尽くすという一見すると大胆な方法です。山肌に生える草や木が過剰に繁茂するのを防ぎ、大室山特有の美しい草原景観を維持し、草原に生息する植物や動物たちの生態系を守る役割も果たしています。
今では伊東の春の風物詩として定着しており、山をまるごと焼き上げる壮大な風景を見るために毎年数万人の見物客が訪れます。
点火後に山麓から標高580メートルの山頂まで真っ赤な炎が駆け上がる様子は圧巻。大室山からほど近い「さくらの里」からは、山肌を真っ黒に焼き尽くす景色を見られます。

春の風物詩:山焼き

お鉢めぐりで360度パノラマ体験


頂上に到着後は、大きな窪みである噴火口跡をぐるりと一周する「お鉢めぐり」を楽しみます。周囲約1,000mの散策路を20~30分ほどで一周することができました。
散策中、多くの人が足を止めている看板に目が留まりました。それは、アニメ作品「ゆるキャン△」の看板。この作品は女子高生たちがキャンプやアウトドアを楽しみながら、実在するキャンプ場や名所を巡る内容で、静岡県内にもモデルとなった地が数多くあります。
私自身もこのアニメを観たことがあり、登場した店舗や風景が非常に忠実に再現されていることに驚いた覚えがあります。そのため、キャラクターと同じ構図で写真を撮るなど、聖地巡礼スポットとして訪れる方も多いようです。

遮るものがない360度の大パノラマを眺めながらの散策は、実に爽快でした。季節によって山肌の色合いが変化するため、訪れるたびに違った風景が楽しめそうです。


大室山
[住所]静岡県伊東市池672-2
[TEL] 0557-51-0258
[営業時間]
10月1日~3月5日/9:00~16:15
3月6日〜3月15日/9:00~16:45
3月16日~9月30日/9:00~17:15
[URL]https://omuroyama.com/


城ヶ崎海岸「門脇つり橋」で感じるスリルと映画の世界


山を下り、大室山を後にして、次に訪れたのは城ヶ崎海岸の「門脇(かどわき)つり橋」です。ここもぜひ訪れたいスポットの一つです。
つり橋は全長48メートル、高さは23メートルで、8階建てのビルに相当します。こうして考えるとその高さが実感でき、かなりのスリルを感じます。

高さ約23m、長さ48mの城ヶ崎海岸のつり橋

つり橋を渡り切った先には、岩肌の上を歩ける場所がありました。足元が不安定なので注意しながら歩き、ふと振り返ると、渡ってきたつり橋も同様に黒っぽいゴツゴツとした岩肌が広がっていました。これは約4,000年前の大室山の噴火で生まれた溶岩が海まで流れ、波の浸食によって形作られたものです。 小さな岬と入江が連続する断崖の海岸線が広がっており、その景観は壮観です。

断崖と入江が続く城ヶ崎海岸

この断崖絶壁と海の組み合わせは、サスペンスドラマや特撮番組の緊張感やスリルを演出するのにぴったりで、ロケ地として度々使われるのも頷けます。

そして、大室山の「お鉢」の部分がどこかで見覚えがあるような気がして調べてみたところ、新海誠監督の映画『君の名は。』の舞台である「糸守湖」に似ていることが分かりました。そのため、「大室山がモデルになっているのではないか」と、観光客が多く訪れるようになったそうです。ドラマや映画の舞台になるほど、伊東市の自然は人を惹きつける魅力を持っているのだと、実際に訪れてみて実感しました。



城ヶ崎海岸
[住所] 静岡県伊東市富戸
[URL] https://itospa.com/spot/detail_54002.html



クラシックホテルの名門・川奈ホテルへ


雄大な自然に触れ、散策で程良く体を動かし、そろそろお腹も空いてきた頃。
海岸沿いを北に向かって車を走らせ、「マリリン・モンローが食べたオムライスが有名」という川奈ホテルへと向かいます。

英国の城を思い描いた1936年(昭和初期)の近代建築が、今も受け継がれている「川奈ホテル本館」、「田舎家」2016年2月25日、登録有形文化財(建造物)に認定
※川奈ホテル様より写真提供


驚くほどに堂々とした風景と手入れされた庭園に、目を奪われました。ホテルから臨む風景は、相模灘を眼前に富士山から丹沢連峰、大山、湘南、三浦半島そして東京湾、房総半島、大島、伊豆七島までを一望できる美しさです。
大倉財閥2代目であり、創設者でもある大倉喜七郎氏はこの絶景に魅了され、明治時代にイギリス留学中に訪れた自然の中の大邸宅を再現するために別荘として建設。 時代を経て「川奈ホテル」となりました。1928年(昭和3年)にゴルフコースの大島コースが完成し、続いて1936年(昭和11年)にホテルと富士コースが開業。 文化財的な価値のある意匠は開業当時のまま継承され、伝統が息づいています。
また、川奈ホテルは政財界の要人や海外のトップクラスの映画俳優から愛され、さらに、皇室の方々にもご滞在いただくなど、国内屈指のリゾートホテルとして誇るべき歴史があります。

憧れのゴルフコース


自然の地形を生かした美しいレイアウトだが、東洋一難しいと言われている「富士コース」
※川奈ホテル様より写真提供


相模湾の海を臨むロケーション・日帰りプランでも利用できる「大島コース」
※川奈ホテル様より写真提供


[富士コースと大島コース]
ゴルファーの間では、相模灘を見渡す絶景と自然の地形を活かしたコース設計含め、「ゴルフの聖地」として憧れのゴルフ場でもあります。
ゴルフ場設計の巨匠である英国人C.Hアリソンが1930年に来日し、川奈の雄大な景観に惚れ、アリソンの図面に基づき1936年(昭和11年)に「富士コース」が完成しました。
また、「大島コース」は大谷光明設計により1928年(昭和3年)に完成した格調あるコースです。
重機のない時代に広大な敷地を切り開き、人力で仕上げたゴルフコースと聞き、とても驚きましたが、コース管理も設計者の遺志を大切にしており、オープン当時からその景観は変わっていないそうです。妥協することなく「一流を継承する」という使命には、計り知れない努力と多大な苦労が伴ったであろうと想像しつつ、大倉喜七郎氏の偉大さに深く感銘を受けました。


優美な川奈ホテル


ロビーには、なんとも立派なしつらえに調度品の数々。立派な暖炉の上に掲げられたワシのエンブレム、デザインされた絨毯の床、皮張りのソファに、大きなシャンデリア、正面の窓からは空と海、そして広々とした芝の青と緑のコントラスト。すべてが非日常のはずなのに、ソファに腰掛けると静かで穏やかな空間に、不思議と心が落ち着きます。照明ひとつをとっても目を見張るものばかりで、思わずじっと見つめてしまうほど。どこを見ても美しく、優美な雰囲気にため息がでます。

メインロビーを象徴するヨーロッパのシャンデリア

メインロビー:開業当時からメンテナンスし使い続けているソファー

メインバー:夜の語らいの場として当時と変わらず残っている
※川奈ホテル様より写真提供


ヨーロッパの魔除けの意味を持つ、メインロビーの悪魔に剣が刺さった彫刻



館内はとても広く、さまざまな様式の建築を見ることができます。外観のスペイン風、内装の英国風、日本風など。個人的には館内の案内板に使われている手書きの書体に時代を感じ、ときめきました。ホテルの歴史がわかる資料スペースもあり、国賓や世界のVIPの写真も見られます。

※川奈ホテル様より写真提供




歴史あるホテル経営にはやはり多くのドラマがあるそうで、こんなお話を伺うことができました。
ホテルが建設される以前は、川奈の住民は半農半漁の生活を送っていました。しかし、ホテルの建設が完了し、多くの雇用が生まれると住民たちはこぞって給料の高い川奈ホテルに就職し、モンペを着た田舎娘から洋式の制服へと着替え、誰もが憧れる職場に勤めることができ身も心も変貌を遂げたのです。背景として、大倉喜七郎氏が川奈の土地を買収する際に、買取の条件として、町民のホテルでの雇用と水を川奈の町まで引いてもらうことを条件としたそうです。その条件を吞む形で人も少ない土地で雇用の問題も解決させたのです。

ホテル開業からしばらくすると太平洋戦争が開戦され、川奈ホテルも昭和の激動の渦へと飲み込まれていきます。戦争がはじまると川奈ホテルは駐日大使の一時的な避難場所として使用され、その後、「戦時中にゴルフなどもってのほか」と陸軍大将であった東條英機に目を付けられました。日本軍の視察団が来た際に、近隣の農家より馬や牛を借りて敷地内に放し牧場に偽装したという逸話もありますが、結局は海軍病院として日本軍に接収されることになります。戦後はアメリカ軍を主体とした進駐軍に接収されましたが、1952年に接収が解除されホテルとしての営業をやっと再開することができたのです。

天城山がもたらす川奈ホテルの上質な水


川奈ホテルは「水」が美味しいことでも知られており、その水質の良さでも高い評価を得ています。
約12kmも離れた天城山麓から水を引き込んでおり、ホテル館内の水はすべて天城山の水を使用しています。飲料水や料理はもちろんのこと、施設内プールの水にまで、この良質な水を使用する徹底ぶりです。長い時間をかけて自然に湧き出た水は、のど越しの良い軟水で、クセも少ないためスープやソース、出汁など、料理にも最適。ホテルでの滞在をより特別なものにする、こだわりの水も川奈ホテルの大きな魅力となっています。
実は、「川奈」という地名は、諸説あるようですが、「川無し」ということから由来しており、そこから「川奈」と名付けられたと言われているそうです。このホテルを造るときも、この周辺一帯は溶岩地帯で水がなかったそう。開業に伴い、「水がなければ困る」と創業者の大倉喜七郎は考えて、天城山から自然落下の力で水を引いたのです。そのため、川奈ホテルは創業から天城の天然水でSDGsを実践していると言えます。

マリリン・モンローが夜食に食べたオムライス


歴史や賓客にまつわるエピソードとして、1954年(昭和29年)2月5日・6日、女優のマリリン・モンローとメジャーリーガーのジョー・ディマジオが新婚旅行で日本を訪れ、その際にお忍びで滞在したのが川奈ホテルでした。



ある晩、マリリンが深夜にお腹を空かせルームサービスを頼もうとしたところ、厨房には見習いのコックしかおらず、彼は「オムレツなら作れるので、メニューにはないがオムライスなら提供できる」と伝えます。こうして、マリリンが食べたのがこのオムライスです。




ロケーションが良い絶景ラウンジ「サンパーラー」
※川奈ホテル様より写真提供

このオムライスをマリリンが非常に気に入り、もう一度食べるほどだったことから、現在では川奈ホテルの復刻メニューとして人気を誇っています。
川奈ホテルの焼印が押された美しい見た目。トマトケチャップで味付けしたチキンライスをふんわりとした卵で包み、3~4日かけて作られた野菜の旨味が凝縮されたデミグラスソースで仕上げられています。外はふわふわで、中はトロトロのこのオムライスは、旅の思い出にふさわしい一品でした。

新婚旅行で来日したマリリンは、当時すでに大変な人気を誇っており、飛行機が着陸した瞬間から夫妻はマスコミやファンに囲まれ、移動や食事の場面でも常に注目の的でした。そのような状況の中で、まるでプライバシーを守るかのように、ひっそりと川奈ホテルまでたどり着き、夫婦で景色を楽しみ、散歩をしながらようやくひと息ついたのではないでしょうか。そんなリラックスした夜に口にした温かいオムライスは、マリリンにとって深く印象に残ったことでしょう。

オムライスをいただいたのは、ホテル1階にある「サンパーラー」というガラス張りのラウンジで、相模灘を一望しながら食事を楽しみました。天井が高く、フローリングのホールは貴族の社交場や舞踏会の舞台を思わせる優雅な空間。青い布張りの椅子が整然と配置され、陽光が降り注ぐ中での静かなティータイムは、日常を忘れて心からくつろげるひとときでした。

オムライスや食事はB1階のグリルでもいただけます。ショーケースにはケーキが並び、紹介しきれなかった川奈ならではのメニューもありました。個人的に再度訪れて食べてみようと心に決めました。

いかがでしたでしょうか?
伊東の海、山、そして水がもたらす自然の恵みと美しい風景と歴史感じる静寂の空間の中で過ごす時間。数々の物語の舞台にもなっている伊東市で、素晴らしい旅をお楽しみください。


川奈ホテル
[住所]静岡県伊東市川奈1459
[TEL] 0557-45-1111
[URL] https://www.princehotels.co.jp/kawana/

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