ららら紀行

0024
製紙のまちを走る「岳南電車」に乗って大人の遠足
#岳南鉄道線  #スイーツがんも  #夜景  #ビール  #富士市  

昼は沿線のソウルフードを味わい
夜は日本唯一の工場夜景電車を満喫




製紙産業が盛んな富士市の工場地帯を走る「岳南鉄道線」は昭和23年に開業し、以来工場で働く人の足として、製紙加工品を運ぶ貨物列車として活躍。
産業を支える重要な鉄道だった。時代の変化から平成24年に貨物輸送は廃止となるが、旅客部門は平成25年に「岳南電車」に分社化され今も健在。全長9.2キロ、10駅を結ぶ電車として地元住民に親しまれている。
また近年はレトロな駅舎の雰囲気が話題を呼び観光客が急増。月に1~2日運行する夜景電車の人気も急上昇中で、毎回満席になる盛況ぶりだ。今回の旅は、昼は沿線のソウルフードを訪ね、夜は専用電車に乗って工場夜景を満喫!紙のまち・富士市を遠足気分でめぐる。


富士市民のソウルフード
無人駅のそば屋で腹ごしらえ


岳南原田駅から徒歩0分。無人駅の待合にテーブルとイス。あたりには出汁のいい香りが漂う。それもそのはず駅舎にそば屋が併設されているのだ。この地に暖簾を掲げて50余年という駅そば「めん太郎」だ。昼時には行列ができる人気店で、慣れ親しんだ味に富士市民が足繁く通う。
そば屋と言いつつも、実はうどんの方が人気だそうで、断面が丸く、つるつるっとした食感が特徴。トッピングが豊富に揃い、人気ツートップは「ササミ天」と「メンチカツ」。珍しいところでは玉子が「煮・生・ゆで」から選べる。ちなみに「煮」はラーメン店でお馴染みの味付きゆで玉子と思いきや、注文を受けてから生玉子をそばつゆでさっと煮て提供するのだそうだ。何にしようか迷っていると、常連客が「うどん並、ササミ天、煮玉子」と流ちょうにオーダー。と、店長の杉山淑子さんが「中で食べますか?」。なんと、店内か駅の待合か、食べる場所が選べるのだ。この待合テーブル席の効果か、2020年頃から「うどんを食べながら電車が見える」と話題になり観光客が急増。確かに待合から見える景色は改札もホームもどこか懐かしく、のどかな雰囲気が漂う。そこに電車の近づく音が聞こえてくると、なぜかそわそわワクワクする。これも魅力なのかもしれない。
出汁はイワシ、カツオ、サバ、昆布で作り、かえしはたまり醤油を使用。実際に食べてみると、甘からず辛からずの絶妙な味わいで、関東の味とも、関西の味とも違う。その中間点に位置する静岡ならではの味!? 常連客が「クセになる味」というのも納得できる。今回食べたササミ天は想像以上の大きさでボリューム満点。隣で食べているカメラマンのメンチカツの大きさにも驚いた。聞けば女性客には半分に切って提供しているそうだ。さらに「煮」玉子は半生状態で、これを選んで大正解!
 駅のそば屋は数あれど、レトロな無人駅のそれは珍しい。11時半~13時半は最も込むので避けるのがおすすめだが、230人を超える客が訪れるという土曜日は、昼過ぎにトッピングの揚げ物がなくなってしまうので要注意だ。

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めん太郎
[住所]富士市原田217-1
[TEL]なし
[営業時間]9:00~17:30
[定休日]日曜日、祝日
[公式サイト]なし
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「うどんかけ」400円に「ササミ天」150円、「煮玉子」60円をトッピング
「そばかけ」400円に「メンチ」150円、「生玉子」60円をトッピング(前金制)



店主の杉山淑子さん


うどんもそばも近所の製麺所に特注している


常連客は暖簾のある店の入り口から入り、帰りは待合側へと出ていく


駅そばらしい気取りのない雰囲気がいい


改札前の待合に置かれたテーブル席が観光客に人気


手書きの修正も味があっていい
(冷しぶっかけは夏限定メニュー)



がんもが甘い!?花びら模様!?
100年以上前から伝わる「味付きがんも」


岳南原田駅から徒歩10分。目指すは創業100余年の「金沢豆腐店」の「スイーツがんも」だ。がんもと言えば、おでんや煮物で食べるのが一般的だが、富士市周辺のがんもは甘くて、おやつ感覚でそのまま食べるのだという。果たしてどんなものなのか?
おじゃましたのは開店前の朝8時過ぎ。まさにがんもを揚げている真っ最中で、この道25年という金澤智美さんの表情は真剣そのもの。油の温度調節や揚げ具合いなど微妙な作業が続くためこの間の取材はNGとのこと。替わりに店主の金澤幸彦さんにお話を伺った。
「甘く味つけしたがんもは富士市と、富士宮、沼津の一部で食べられていて、100年以上前からあるらしいのですが詳しいことはわかっていないんです」。古くから仏事に使われ、払いの席の膳には必ずあり、引き出物として使うこともあるそうだ。形が花びらのようになっているのも特徴でこれも昔から。昭和35年頃、市内に40~50軒あった豆腐店のほとんどが甘いがんもを作っていたが、現在は豆腐店も少なくなり、がんもを作る店も4軒のみだという。「スイーツがんも」という名は、豆腐店によって異なる商品名を統一しようと10年ほど前に豆腐油揚商工組合によってつけられたもので、金沢豆腐店では「味つけがんも」の名で販売している。
 豆腐の生地に砂糖、黒胡麻、みじん切りにしたニンジン、塩を加えて花びら型に成形し、まずは低温で7~8分。何度かひっくり返し、浮いてきたら高温の油に入れ替え表面、裏面合わせて十数秒。目視で色が変わったら油からあげる。すべての工程が、智美さんの永年の経験から導かれるもので、11時頃までの間に毎日300~500個揚げるそうだ。この日も開店前から予約注文の電話が何本も鳴っていた。ちなみにこのがんも、実はちょっと焦げたほうが美味しいそうで、実際に食べ比べてみると、確かに焦げている方が豆腐の旨味がより感じられ、美味!金沢豆腐店では、味付けがんもを使った稲荷ずし「がんもなり」と、サンドイッチ「がんもいっち」も販売しているのでぜひお試しを。

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金沢豆腐店
[住所]富士市今泉4-1-13
[TEL]0545-52-1640
[営業時間]9:00~18:00(売り切れ次第終了)
[定休日]日曜日
[公式サイト] https://kanazawa-tofu.com/
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「味つけがんも」1枚200円。


がんものプロ、金澤智美さん


低温でじっくり揚げてから高温で仕上げる


4代目店主の金澤幸彦さん




豆腐はもめんのみを製造販売。大豆はミヤギシロメを使用


「がんもなり」2個入り500円。半分に割ったがんもの中に酢飯、ショウガ、白胡麻が入る


「がんもいっち」2個入り550円。豆腐ハンバーグのようでトマトソースがアクセントになっている


未来のソウルフード!?
地元産こしひかりでつくる甘糀、ジェラート、クラフトビール


岳南電車の終着駅、無人駅の岳南江尾駅から徒歩0分。昭和28年に建てられたレトロな駅舎に、この夏誕生したという米糀甘酒の専門店「こころみち糀店」を訪ねた。出迎えてくれたのは笑顔がチャーミングな店主の高橋由香さんだ。夫の梓さんと富士市内でお米をメインに夏はトウモロコシ、冬はブロッコリー、ケールなどの野菜を作る農家だという。お米の直売所をつくってほしいという要望があり、自身も店を持ちたいという思いがあったところに、岳南電車の空き駅舎を利用しないかとの話が飛び込んできた。2024年3月、開業を決意し、トントン拍子に事が進み、7月にはオープン。恐るべき行動力だ。
メイン商品は自園の米で作る甘酒「飲む甘糀」で、フレーバーは地元のお茶屋さんのものを使用。これが大好評で、この日も一番人気の「プレーン」は品切れ中。その勢いのまま、地元の「神戸醤油店」(かんべしょうゆてん)に自園の米を使った甘糀を依頼し、地元のジェラート店「PRIMA CLASSE」(プリマクラッセ)と組んで「食べる甘糀じぇらーと」を完成させた。さらに地元の醸造家「BADASS BEER BASE(バダスビアベース)とコラボし自園のお米を糖の替わりに使ったビール「縁 ENISHI」も世に出した。由香さんは「これをやりたいと言っていると、人が人を紹介してくれる」とケロリと言うが、パワー全開な由香さんの魅力が人との縁を繋ぐのだろう。地元産のお米と、地元住民が培った技や知恵が紡ぐ甘酒は、この先きっとこの街のソウルフードになっていくに違いない。
そんなことを考えつつ、この夏大人気だったという「糀ドリンク」を一杯。甘糀をリンゴ酢やジュースで割ったもので、トマトジュースをチョイス。甘さがしつこくなく、むしろあっさりしていて飲みやすい! ジェラートはプレーンをいただいたがこちらも甘過ぎず、甘糀の風味が感じられクセになりそうだ。

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こころみち糀店
[住所]富士市江尾143-2
[お問合せ]instagramのDMで
[営業日]土・日曜日、祝日
[営業時間]11:00~15:00
[公式サイト]https://kokoromichi-koujiten.com/
[Instagram]https://www.instagram.com/kokoromichi_koujiten/
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昭和28年に建てられた駅舎の駅務室で営業


「糀ドリンク」(リンゴ酢ソーダ、ブルーベリージュース、オレンジジュース、トマトジュース)400円


店名には「米糀の自然な甘さで心も体も満たされ、新しい一歩の活力になれたら」という思いが込められているそうだ


「飲む甘糀」300ml 750円~。プレーンの他地元産緑茶、ほうじ茶のフレーバーもある


「食べる甘糀じぇらーと」プレーン380円~。他に緑茶、ほうじ茶がある


パワフルな店主・高橋由香さんに元気をもらった気がする


「縁 ENISHI」800円


暗闇に浮かびあがる幻想的な灯りが美しい
日本唯一の工場夜景電車


富士山の麓という立地から豊富な水資源に恵まれた富士市には、明治以降、製紙工場が集積。紙のまちとして発展を続けてきた。中でもトイレットペーパーやティシュペーパーは国内屈指のシェアを誇り、テレビCMでお馴染みの商品もこの地で数多く作られている。そんな工場地帯を走るのが「岳南電車」で、2014年に日本夜景遺産に登録されたことを受け、夜景電車の運行が始まった。
18時過ぎ、吉原駅のホームにはすでに夜景専用電車がスタンバイ。特別ダイヤで走る完全予約制の「富士の宵」だ。この電車には夜景の魅力を伝えるガイド「夜景観光士」が同乗し、バスツアーならぬ電車ツアー気分でプチ旅が楽しめる。18時48分、電車が動き出すと窓を開けるよう促され、車内の灯りが消される。と同時に街の灯り、田子の浦港の灯り、工場の夜景が次々と目に飛び込んで来る。工場と電車との距離がかなり近く、トイレットペーパー工場の窓越しに中の作業の様子が見えるのには驚いた。夜景観光士イチオシのスポットは電車が巨大工場の敷地内を走る日本製紙の夜景で、暗闇の中を灯りが流れる美しい光景が続く。ついつい夜景撮影に夢中になってしまうが、ここではぜひ、幻想的な世界に浸ることをお勧めしたい。夜景電車ツアーは途中下車しながら往復約2時間。「岳南富士岡駅」では貨物営業時代に活躍した昭和初期の電気機関車の見学ができ、ライトアップされた機関車との記念撮影もOK。「比奈駅」や国登録有形文化財のプラットホームが残る「本吉原駅」にも停車する。さらに、途中おやつタイムがあり、吉原商店街の人気店・杉山フルーツの「フルーツミックスゼリー」が配られるのもうれしい。
のどかな昼の無人駅の光景と、夜の幻想的な工場夜景。それぞれ違う魅力を持つ岳南電車の旅を通して紙のまち富士市の文化に触れ、ソウルフードも堪能することができた。まるで大人の遠足のような一日だった。

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岳南電車
[住所]富士市今泉1-17-39
[TEL]0545-53-5111
[富士の宵]大人3500円、小人2000円。ポストカード、
一日フリー乗車券、オリジナルブレンドのドリップパックコーヒー、
フルーツミックスゼリー付
※1両のみ消灯し普通電車に連結し運行する「夜景電車」もある
[運行日]公式サイト参照
[公式サイト]https://www.gakutetsu.jp/
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幻想的な日本製紙の工場夜景


この美しさを体感すれば、夜景撮影に夢中になるのもわかる


「富士の宵」のチケットはセブンチケットで販売

夜景観光士が見どころを案内してくれる


車内の灯りは小さな行燈のみとなる


昭和初期の電気機関車が展示されている「がくてつ機関車ひろば」


往路の終着駅「岳南江尾駅」
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