ららら紀行

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美しい景観にも注目。世界農業遺産認定の静岡水わさびの伝統栽培。
#伊豆  #わさび  

大昔に大陸の衝突と海底火山の噴火の繰り返しで生まれた伊豆半島は、独特の美しい自然景観が広がるところです。そんな伊豆で有名な産物のひとつがわさび。静岡県のわさびの生産量は全国の7割を占めます。
2017年(平成29年)に日本農業遺産に認定され、続く2018年(平成30年)には世界農業遺産に認定された「静岡水わさびの伝統栽培-発祥の地が伝える人とわさびの歴史-」。沢を開墾し、段々状につくった畳石式と呼ばれるわさび栽培方法が世界に認められました。
わさびは、日本列島で独自の進化を遂げた固有種であり、きれいな湧水と美しい自然とともに育ちます。わさび田の近隣は、まさに多様な生物に囲まれた今も昔も変わらない自然風景が広がります。そんな静岡が世界に誇るわさびの歴史とその広がりについてご紹介していきます。

約400年前に構築された静岡水わさびの伝統栽培方法。



「筏場のわさび沢」でわさびを生産している、中伊豆山葵組合の組合長・塩谷美博さん。

わさび栽培の歴史は、今から約400年前の江戸時代初期に始まったと言われています。静岡市葵区有東木で、村人が自生しているわさびを湧水に植えたのが栽培の最初のスタート。徳川家康にわさびを献上したところ、その味はもちろん、わさびの葉が徳川家の葵の紋に似ており、また、漢字でも「山葵」と書くこともあってたいへんに珍重されたという言い伝えもあります。わさびを気に入っていた家康は、有東木からのわさびの持ち出しを禁じたほどでした。

1744年、天城湯ヶ島(現・伊豆市湯ヶ島)の山守であった板垣勘四郎がしいたけ栽培の指導者として有東木を訪れた際に、その指導のお礼としてわさび苗をもらい、天城湯ヶ島で育て始めたことがきっかけとなり、伊豆地域でのわさび栽培が盛んになっていきました。江戸時代後期に寿司が生まれると、わさびの消費は飛躍的に増えることとなりその生産量が増えていきます。伊豆でつくられたわさびは、船に乗り、江戸へと運ばれていきました。



古の噴火による溶岩から生まれた軽石。たくさんの穴があり、保水性が高い。これがわさび栽培に欠かせない。大雨が降っても水を吸収し、沢の水分量を調整してくれる。

その後、1892年(明治25年)頃に石を積み上げてつくる「畳石式」と呼ばれる栽培方法が伊豆で考案され、その栽培方法が全国各地に広まりました。伊豆半島を代表するわさび産地「筏場(いかだば)のわさび沢」は、約3200年前に起きた火山噴火による溶岩の末端付近に位置しています。 わさび田では、溶岩の軽石質の中に長い年月蓄えられた水が清らかな湧水となって沢へと流れ出ています。


水がきれいなところの方がより品質の良いわさびができるとも言われ、同じ生産者の同じ品種のわさびでも、場所、水質によって品質は異なるそうです。
同じ産地・同じ農家から一年中、出荷可能なことも特徴のひとつ。わさび田には年中水温15度前後の湧水が流れ、周りが木々に囲まれていることで一年を通してわさびが育ちやすい気温(13~18度)に安定しているからだと言われています。


四季折々のわさび田の美しいランドスケープにも注目。




「筏場のわさび沢」は400年ほど前につくられた場所ですが、1958年(昭和33年)の狩野川台風で壊滅的な危機に陥ったことも。その後、生産者や地元の力により復興を遂げ、「日本一のわさびの里」になった。

畳石式と呼ばれるわさび田は、表層部分に砂礫があり、その下に小石が並べられ、さらにその下に大きな石という形で砂と石の層があり、そこに水を通すことで濾過し、階段状の下のわさび田へと流していきます。畳石式のわさび田は、肥料や農薬をほとんど使わずに豊富な湧水を利用するため、環境負荷が少なく、持続可能な農法でもあります。

美しいわさび田は、優れたランドスケープをつくり出し、周辺の四季折々の風景と合重なり、日本人のみならず世界中の人から愛される風景になっています。12〜3月頃に白い花が咲き、3月が一番開花のピーク。この頃の風景も見頃です。また、12月初めの紅葉シーズンも見応えがあります。

わさびは春から夏にかけては水分をよく含んで大きく成長します。品種によって異なりますが、一般的にはこの季節のわさびは水気が多く、粘りが少ない傾向があり、蕎麦に合わせるのがおすすめ。
逆に秋から冬にかけては、じっくり育つため水気が少なくなり、粘りがあるわさびが採れる傾向にあります。この頃のわさびは、寿司や刺身に合わせると良いようです。
また、葉や茎、春に咲く花の部分も食べることができます。葉を天ぷらにしたり、茎や花は佃煮にして楽しむことができます。

わさびを選ぶ際には、脇芽がでている部分の間隔が詰まっているものの方がおいしいとのことです。鮫皮でできたおろしで、円を描くようにゆっくり回しながらおろすと、粘りとわさびのほんのりとした甘みを感じられます。 同じアブラナ科の大根と同じで、茎に近い方が香りがよく、辛味が少なめ。色も美しく普段はなかなか感じられない甘みすらも感じられる場所です。逆に先端の方は香りは少なめで、粘りがある部分。色も鈍い緑色をしています。中央部分は香りも辛さもバランスが良い部分。食べ方に合わせて使用しましょう。

— 筏場のわさび沢 [住所]静岡県伊豆市筏場 ※わさび田は生産者の私有地で観光地として整備されていません。見学の際は、生産者の邪魔にならないよう、十分に配慮して訪れましょう —

生産者直営「あまご茶屋」で、わさびを使った特別料理を堪能。





写真はわさび鍋、わさび丼などがセットになった特別メニュー。

わさびの生産者でもあり、大型で上質な「紅姫(べにひめ)あまご」の生産者でもある「あまご倶楽部」が営む「あまご茶屋」。生産者ならではのわさびをふんだんに使った料理をいただくことができます。
わさびを使ったおすすめメニューは、「わさび鍋」。もともとわさび鍋はこの地域の旅館等でしかいただくことができなかった料理。新鮮な紅姫あまごも入った鍋で、火を通すとツンとしたわさびの辛味がなくなり、辛いのが苦手な方でもおいしくいただけます。鍋の締めには、地元の天城軍鶏の卵を溶き入れ、うどん、もしくはご飯を入れていただくのがおすすめ。

また、自分で擦りおろしたわさびをのせていただく「わさび丼」は、ご飯の上に、伊豆産の菜海苔(なのり)とかつお節をのせていただきます。菜海苔は、沼津市から西伊豆の沿岸で採れる岩海苔の一種で、伊豆の希少なローカルフード。かつお節は西伊豆町で昔ながらの手火山式(てびやましき)焙乾製法でつくる「カネサ鰹節商店」のものを使用しています。いずれも香り豊かなものばかり。伊豆のおいしさが詰まった食事を召し上がってみてはいかがでしょう。

— あまご茶屋 天城湯ケ島店 [住所]静岡県伊豆市市山540-1 [TEL]0558-85-2016 [URL]https://amago.co.jp —

生産者直営「天城わさびの里」で、わさびを酒粕と合わせたわさび漬け加工体験。




わさび漬けは、茎や根を刻んで塩漬けしたわさびを、酒粕や砂糖、みりんなどの調味料と合わせたものに漬け込んだもの。生のわさびより辛味がやわらぎ、ご飯やお酒と合わせていただく静岡ならではの郷土料理で、農林水産省の「うちの郷土料理 ― 次世代に伝えたい大切な味 ―」でも紹介されています。

わさび漬けは江戸時代に誕生したと言われています。もともと有東木は、わさびを味噌や塩に漬けた糠漬けとして味わっていましたが、この食べ方にヒントを得て誕生したのが現在のわさび漬けです。

道の駅「天城越え」内にある「天城わさびの里」では、わさび漬けの加工体験が可能。わさびを刻み、塩揉みし、特製配合の酒粕と合わせるだけで完成。自分でつくるわさび漬けはまた格別な味。20分ほどでできるので、子どもから大人まで気軽に楽しむことができます。

— 天城わさびの里 [住所]静岡県伊豆市湯ヶ島892-6(道の駅「天城越え」内) [TEL]0558-85-0999 [URL]http://amagi-wasabinosato.co.jp ※わさび漬け体験は要予約 —

少し足を伸ばして。伊豆半島の水の恵みを見に「滑沢渓谷」へ。







道の駅「天城越え」向かって左手に、遊歩道「踊子歩道」が整備されており、こちらを歩いていくと井上靖の処女作『猟銃』のモチーフにもなった「滑沢渓谷(なめさわけいこく)」へ行くことが可能。溶岩が冷却される際にできる節理(せつり)と呼ばれる独特の形状の岩や、「竜姿の滝(りゅうしのたき)」は見応えがあります。
こちらを歩いてみると、至るところで水が湧き出る様子を見ることができ、伊豆の清らかで豊かな水を実感することができます。こちらの道中でもいくつかのわさび田を見ることができます。

— 滑沢渓谷 [住所]静岡県伊豆市湯ケ島 滑沢渓谷 [URL]https://izugeopark.org/geosites/namesawa/ —

【今回ご紹介したスポットのモデルプラン例】

※車を利用
8:45
JR沼津駅出発。

9:45〜10:30
筏場のわさび沢。
※わさび田は生産者の私有地で観光地として整備されていません。見学の際は、生産者の邪魔にならないよう、十分に配慮して訪れましょう。

11:00〜11:30
天城わさびの里でのわさび漬け体験。

12:00〜13:00
あまご茶屋 天城湯ケ島店で昼食。

13:30〜14:30
道の駅「天城越え」から滑沢渓谷へ。伊豆半島ジオガイド協会によるジオガイドツアーもおすすめです。

16:00
JR三島駅到着。

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