ららら紀行

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新進気鋭の和食料理人が一日限りの饗宴『第2回 美味らららダイニング』開催レポート(後編)
#ふじのくに茶の都ミュージアム  #美味らららダイニング  #ダイニング  
静岡県は、全国トップクラスの多彩な「食材の王国」である優位性を生かした観光振興を図るため、ガストロノミーツーリズムを推進しています。その一環として、2024年2月15日(木)に、「第2回 美味らららダイニング」を「ふじのくに茶の都ミュージアム」で開催しました。

今回のダイニングのコンセプトは「ふじのくにの新和食」。
地球沸騰化の時代が到来し、より地球に優しい行動を心掛ける意識が大きくなってきている今の時代に、多彩な食材に恵まれる静岡県で料理人は何ができるのか?「ふじのくに食の都づくり仕事人」でもあり、静岡を代表する新進気鋭の2人の和食料理人が手を組み、アイデアと技術を駆使した新しい和食に挑戦しました。海のもの、山のもの、その全てに感謝し、古から未来へ静岡の食の豊かさを繋げていくイベントになりました。

【行程】
15:50 ガイド付き施設見学、プレミアム茶会 [前編のレポートを見る]
17:00 ダイニング
19:30 終了

【会場】
ふじのくに茶の都ミュージアム
住所:静岡県島田市金谷富士見町3053-2
TEL:0547-46-5588
https://tea-museum.jp


静岡の新進気鋭の和食料理人が一日限りの饗宴。「新しい和食」への挑戦。


場所を2階カフェレストラン「丸尾原」へ移し、ダイニングがスタート。
まずは2人の料理人のプロフィールからご紹介していきましょう。

【プロフィール】



一木敏哉(懐石いっ木/浜松市)

京都「菊乃井本店」での修行を経て2006年浜松にて「懐石いっ木」を開店。2017年ミラノ万博、日本館にて静岡県食材、日本酒、日本のだしを紹介。2024年に5回目の仕事人オブザイヤーを受賞し、マエストロシェフの称号を得る。


内海亮(清游/静岡市)

時代の若き才能を発掘する、日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35」において、2013年~2016年にSILVER EGGを連続受賞。料亭、ホテルでの経験を活かし、現在は静岡市清水区興津にある清游の料理長を務める。





静岡県は、全国屈指の花の生産県でもあり、704品目の花が生産される「花の都」でもあるのです。桜、クリスマスローズ、こでまり、菜の花、チューリップ、金魚草など、ひと足早い春を表現した会場装花が施されていました。また、茶席・会席料理の中では欠かせない懐紙と桜をあしらったテーブル演出も行われていました。お花はSDGsの観点から、終了後、お持ち帰りも可能になっていました。


ダイニング開始時、川勝知事から、静岡県は全国トップの439品目を生産する「食の都」であることや静岡の食材に着目した料理人たちを「ふじのくに食の都づくり仕事人」として表彰していること、そして、食と食文化を楽しめるガストロノミーツーリズムを進めていると挨拶がありました。

今回は、ふじのくに食の都づくり仕事人である、一木氏と、内海氏のふたりの料理人のコラボが楽しめる企画になっており、期待が高まります。


当日の給仕は、「オークラアクトシティホテル浜松」(浜松市)監修のもと、「鈴木学園 中央調理製菓専門学校」の生徒さんが担当してくれました。

それぞれに「新しい和食」の提案が盛り込まれた、各お料理のご紹介。



「静岡県産菊芋すり流し 静岡茶瞬間燻製」

蓋を開けるとふわっとお茶の煙が立つ特別な仕掛けが施されており、お茶の香ばしい香りが食欲をそそります。だしを使わずに、素材そのものの味だけが引き立つようになっており、和食では珍しく静岡の牛乳を合わせたもので、口当たりの良い先付けでした。

この間、会場では一木氏がたっぷりのかつお節を使ってだしをとるデモンストレーションも。会場内にかつおだしの良い香りが広がります。


「玉露 茶出汁仕立て 御前崎産九絵酒蒸し」

昆布の代わりに玉露茶を使用してとっただしと花かつおでとっただしを合わせ、酒蒸しに。結び人参と菜の花がこの場にふさわしい演出になっています。
「昆布がいつか採れなくなるのではと言われています。昆布に多く含まれるグルタミン酸は、トマトにも含まれていますが、玉露にも含まれているんですよ。これを“静岡だし”として提案していけたらと思っています」と一木氏。



「春野町産チョウザメ茶締 土佐醤油」と「生のキャビア」

昆布の代わりに、お茶で締めたチョウザメのお造り。ほんのり香るお茶の風味を失わないよう、お醤油を少しだけつけていただきます。
実は春野町(浜松市天竜区)では、チョウザメの養殖が行われているのです。ツマには、大根だけでなく、浜松産サラダセロリや黄色と赤の人参も合わせ、カラフルな彩りに。また、磐田産プリンセスパプリカや、だしを含ませた高糖度の浜松産フルーツトマトといった甘くて食べやすい野菜も添えられていました。

また、フレッシュなキャビアも提供されました。2日前にさばいたばかりなので、一般的な塩漬けされたキャビアとは異なり、青みがかっており、とてもクリーミーな味わいでした。



「ふじのくに 様々な味と香り」

ライスペーパーで富士山を型取り、パルメザンチーズで雪を表現。伝統的な手法と創作を織り交ぜた八寸です。 花山葵蕗味噌浸し、三方原新じゃが芋 潮鰹風味、干し柿金柑砧巻き、アメーラトマト塩麹漬け、カリフラワー白酢、蕗のとうチーズ射込み。
カリフラワー白酢は、カリフラワーを大白胡麻油で乳化させてつくっているそうです。


「鱒炭火焼き 新玉葱ソース」

「富士山サーモン」の生産者・岩本いづみさんのニジマスを使った焼き物。表面のみに火を通し、裏側はほぼ生に近い状態。炭の良い香りがついており、ニジマスの食感とおいしさをじっくりと堪能できる調理法になっています。 添えられたソースは、浜松産新玉ねぎのソースと、生食ができるカリフローレに菜の花を散らされています。
「富士山の八寸」の冬から、季節は春へと移り変わった様子が表現されていました。
一木氏が一つひとつ手書きした「美味ららら」と梅の枝が添えられ、料理人の心意気を感じます。


「峯野牛マザービーフロースト 浜納豆風味 浜松キャンディーキャベツ 胡麻酢和えと低温蒸し」

これからの料理人は環境問題やサステナブルな視点を持たなければいけないという考えから、普段は廃棄されてしまう経産牛を敢えて使い、経産牛の特徴を生かす調理法を考えたそうです。
そんな浜松の峯野牛のマザービーフを使ったお料理。浜松の伝統の発酵食品・浜納豆で牛肉を漬け込み、同じく浜納豆のタレが添えてあります。
糖度が高いと言われている浜松産キャンディキャベツを、胡麻和えと低温蒸しの2種類の異なる味付けで、低温で甘みを引き出しつつ、食感を残しています。
「硬い肉と言われているマザービーフを、日本料理の技術でやわらかく仕上げています。牛肉の脂身が苦手という方にもあっさりと召し上がっていただけると思います」と内海氏。


「清水筍、駿河軍鶏、カルタファタ包み 軍鶏潮スープ」

耐熱性の特殊なフィルムを使い、駿河軍鶏と竹の子を入れて炊いた炊き込みご飯。フィルムを開けたとき、ふわっと竹の子と木の芽の香りが立ち、食欲をかき立ててくれます。
最後は、軍鶏のスープをかけてあっさりと。潮汁をつくる技法を用い、鶏ガラと塩で短時間でだしをとった、すっきりとした味わいのスープです。


「久能完熟苺ぜんざい 松風」

写真右側は、和菓子の「松風」をアレンジした一木氏からの提案。和食では干しぶどうを良く使うそうですが、その代わりに森町産干し柿、磐田産干し芋、一木氏が自ら炒った浜松産落花生を使って「松風」に仕立てています。他にきなこの豆乳のゼリー、ネーブルオレンジ、キウイ、そしてその上から掛川の「しあわせ野菜畑」のオーガニックにんじんのジュレをかけています。
地元で食べられている干し柿や干し芋などを和食として調理し、野菜のジュレをかけるという新しい和食への提案です。

写真左側は、内海氏からの提案で静岡市・久能の「ヤマサン農園」の”紅ほっぺ”、”恋みのり”、”かおり野”の3種類のいちごを使った「いちごぜんざい」。内海氏自身の手でいちごを摘みにいったそうで、葉も添えられていたのも印象的でした。
フレッシュな苺のピューレと、それを煮詰めて凝縮させたものを合わせて、濃厚な苺の味と香りを感じられるものに仕上げています。色を際立たせるために焼酎で炊いたり、アイスクリームにしたりと、様々な工夫がなされていました。


最後に「ふじのくに地球環境史ミュージアム」佐藤洋一郎館長からもご挨拶をいただきました。
「新しい和食」がテーマでしたが、今日は「静岡料理の元年」であると言っても過言ではない日。一木氏は京料理の出身でありながら、色使いのセンスを持ち、静岡の食材をうまく使う料理人であり、内海氏はアバンギャルドで包丁使いがとても見事で、料理にエッジが立っている。二人の料理を通じて、静岡の新和食の可能性が感じられたとお話しいただきました。
佐藤館長特別レポートはこちら 美味らららダイニングを終えて

静岡の地酒の飲み比べと、ボトリングティーの飲み比べ。こだわりのドリンクをご紹介。



美味らららダイニングは、厳選されたドリンクも楽しみのひとつ。今回、アルコールドリンクは、「オークラアクトシティホテル浜松」から、米の旨み、香りを感じる純米酒を中心に提供されました。ノンアルコールドリンクは「丸七製茶」(藤枝市)おすすめのボトリングティーをセレクト。加えてサプライズとして、脱塩した駿河湾海洋深層水で淹れた未発売の貴重な和紅茶もふるまわれました。
また、お水は「萩錦酒造」が仕込み水として使っている南アルプスのやわらぎ水が提供されました。

【アルコール ドリンク】
浜松 花の舞酒造「Abysse Sparkling」
藤枝 志太泉酒造「志太泉 純米生原酒」
掛川 遠州山中酒造「葵天下 純米吟醸 令和誉富士 しぼりたて生原酒 無濾過」
袋井 国香酒造「國香 特別純米 中汲み 無濾通 生原酒」
静岡 萩錦酒造「萩錦 純米酒 駿河酔」

【ノンアルコール ドリンク】
岡部銘茶玉露
楽淹 RAKUEN
Etude やぶきた
HIGASHIYAMA やぶきた
風姿花伝

最後にお二人の料理人からひと言。静岡の食材と和食の可能性が広がる企画に。


来場された参加者の各テーブルを回り、お一人おひとりと言葉を交わしていた一木氏と内海氏。最後に簡単にご挨拶をいただきました。


一木シェフ
「ありがとうございますのひと言に尽きます。ここまで足を運んでいただき、貴重なお時間をいただき、こういうお食事の場を提供させていただいたことに感謝しかありません。今日の日の食の楽しみを周りの方にもお話しいただければ幸いです」。


内海シェフ
「静岡にはたくさんの食材があって、食材の可能性がたくさんあります。我々、料理人もその可能性を広げるとともに、料理人の可能性も広げていきたいと思っています。自分も日本料理だけではなく、他の料理も勉強しつつ、これからも静岡の食を盛り上げていきたいと思っています。
一木さんは正統派の日本料理をアレンジしていく方、自分は西洋の技法などいろいろ取り入れているので、ふたりの対比もまた面白かったのではないかと思います。またこういう機会があればぜひコラボさせていただけると嬉しいです」。




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