ららら紀行

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駿河を食す、いちご生産者と巡る旅
#久能山東照宮  #いちご狩り  #ガストロノミーツーリズム  #日本平  
全国トップクラスの多彩な「食材の王国」、静岡県。その優位性を生かした観光振興を図るため、静岡県ではガストロノミーツーリズムを推進しています。
「ガストロノミーツーリズム」とは、食を通じてその土地の気候や風土、文化、歴史や伝統に触れる旅のこと。その醍醐味を存分に味わえるバスツアーが企画されました。今回は、先日行われたモニターツアーの様子をリポートします。

JR静岡駅から車で15分ほど。駿河湾に面した国道150号線沿いの久能地区は通称「いちご海岸ストリート」と呼ばれ、日本で最初にいちご狩りを始めた地と言われています。今回のツアーのガイド役は、その久能で三代続くいちご農家さん。いちご狩りはもちろん、この地のいちご栽培にも深い関わりを持つ国宝・久能山東照宮、さらには豊かな静岡の食の恵みをたっぷりと味わえる、短い時間ながらも充実した旅でした。


日本平山頂からロープウェイで国宝・久能山東照宮へ




12月某日。静岡駅南口に集まった参加者を乗せたバスは定刻通り出発。
日頃の行いの良い方が多かったのでしょう、風は強かったもののお天気は晴れ。絶好の旅日和です。


今回の旅のガイド、いちご農園「ヤマサン農園」の海野 保さん。

ガイド役は、久能で三代続くいちご農家「ヤマサン農園」代表取締役の海野 保さん。
いちご栽培についてはもちろん、地域の歴史にも大変詳しく、久能での石垣いちごの栽培の歴史など、詳しいお話を伺いながらの道中でした。伺ったお話は、また後ほどご紹介します。

この日はお天気が良く、空も海も富士山もキレイに見えるということで、ルートを変更。少し遠回りになりますが、海沿いをまわり日本平パークウェイを清水側から山頂を目指しました。静岡県外からの参加者も多く、少しでも景色を楽しんでもらおうというおもてなしの心を感じました。



途中、清水港を懐に抱いたかのような富士山を見られる絶景ポイントでは、車内にどよめきのような歓声が拡がりました。
今年は初冠雪が遅かった富士山ですが、この日は、キレイに雪化粧。ツアーの皆さんを歓迎してくれているかのよう。でも、お天気が良くなければ出会えない景色ですから、そこは運試しですね。

最初の目的地、久能山東照宮へは日本平山頂からロープウェイで向かいます。
海岸沿いから石段を登る参拝ルートもありますが、その石段は1159段。地元では1(いち)1(いち)5(ご)9(くろうさん)と覚えているほど、なかなか健脚向きのルートなのです。
でも久能山東照宮の宮司さんたちは、毎日、この石段を登ってお勤めされているというからビックリ。
何度か石段ルートで参拝したこともありますが、最近はもっぱらロープウェイ派の私。体力的な問題もありますが、この5分間の空の旅が、一段と旅気分を盛り上げてくれるのでオススメです。
眼下に切り立つ絶壁「屏風谷」や、キラキラと水面が輝く駿河湾、さらには御前崎や伊豆半島まで見渡せる絶景に心を躍らせていると、あっという間にロープウェイは久能山駅に到着です。




国宝・久能山東照宮を参拝




ここからは権禰宜(ごんねぎ)の海野貴嗣さんがご案内してくださいました。久能山東照宮の由緒や境内の施設、建造物の特徴や参拝方法等、時折ユーモアを交えながらの解説にみなさん、熱心に聞き入っていました。


ご案内くださった権禰宜(ごんねぎ)の海野貴嗣さん。

久能山東照宮は、徳川家康公をご祭神としてお祀りする全国東照宮の創祀(そうし)。創祀とは、神様を最初にまつるという意味で、家康公をご祭神として初めて祀ったのがここ、久能山東照宮なのです。東照宮といえば、世界遺産にも登録されている日光東照宮が有名ですが、元和2年(1616年)に世を去った家康公は、遺言によりまず久能山に葬られました。その地に2代将軍秀忠公の命により久能山東照宮が創建されたのです。権現造、総漆塗、極彩色の社殿には、当時の最高の技術・芸術が結集され、江戸初期の代表的建造物として平成22年(2010年)12月に国宝に指定されています。


(右)楼門の扁額「東照大権現」の文字は第108代後水尾天皇によって書かれたもの。
(左下)創建当時は鐘撞き堂だったという鼓楼(ころう)。


楼門の扁額「東照大権現」の文字は、後水尾天皇によって書かれたものだとか、楼門のくぐった右手の鼓楼は、創建当時は鐘撞き堂だったものが、明治の神仏分離の際、鐘を太鼓に替えたために今の名称に改められたとか、久能山東照宮は何度も参拝しているのですが、初めて知る情報がいっぱい。これもガイド付き(しかも権禰宜さんという贅沢さ!)の参拝ならではです。



神社の境内にしては、ちょっと変わった奉納品もありました。それが地元のメーカーから奉納されたというプラモデルの数々。静岡市はプラモデル出荷額が日本一。全国シェアの86%を占めており、プラモデルの聖地と呼ばれています。家康公とプラモデル、どんな関係があるの?と思われそうですが、晩年を駿府で過ごした家康公が築城や造営のために日本中から職人達を集め、彼らが仕事を終えた後も駿府城下に根を下ろし、木工製品の制作に携わったことが、現在の模型文化の発展に繋がったと伝えられています。他にも、駿河漆器、駿河蒔絵、駿河挽物等数々の伝統工芸や産業もこうした職人から生まれたと言われているのです。


400年続く平和への祈り




ポイントごとに説明を聞きながら、境内中心部にある社殿に到着しました。通常は一般公開されていない内部 を特別に見学させていただけるのも、ツアーならではです。 社殿内部のご本尊には、真ん中に徳川家康公、右に豊臣秀吉公、左に織田信長公が祀られているそう。 海野権禰宜によると、豊臣秀吉公、織田信長公が祀られたようになったのは実は明治からの話。それまでは家康公を守るために仏像が祀られていたそう。神仏分離令で仏像を他のお寺に安置することになり、平和を作った三柱として秀吉公と信長公のお二人をお祀りするようになりました。ちなみに日光東照宮は、信長公ではなく源頼朝公なのだそうです。



平成の大改修で美しさを取り戻した、見事な漆塗りの装飾に圧倒され、言葉も出ません。
この装飾、江戸時代から現在に至るまで定期的に塗り替えが行われており、その度に創建当時の極彩色のきら びやかな色彩と江戸時代の技術の極みが再現されます。



でもこの写真、左右で違いがあるのが分かりますか?
左側は塗り忘れた訳ではありません。元々の装飾や色みのバランス等を参考にできるよう、わざと改修せずに 残しているとのこと。昔の職人さんの技術力の高さ、そしてそれを復元できる技を引き継いでいる職人さんが 今もいらっしゃること。どちらも誇らしいですし、末永く伝承されることを願います。


最も人目につきやすいところにある「司馬温公の甕割り」の彫り物。

社殿の外側も豪華な装飾が施され、見どころがたくさん。
中でも社殿正面、賽銭箱の上の最も人々が目にする場所にあるのは、家康公が大切にしていたという司馬温公 の教えの中の「司馬温公の甕割り」という彫刻。ある時、高価な水瓶に落ちた友人を助けるために瓶を割った ところ、父親がほめたたえたエピソードを表していて、「人の命はどんなものよりも価値がある」ということ を伝えていると言われています。
人質として幼少時代を過ごし、その後も幾多の戦を経験した家康公。誰よりも命の尊さを知るからこそ、260 年も続く平和な時代を築けた家康公からの、後の世の私たちへの強く重いメッセージだと感じました。



社殿奥の廓門をくぐり40 段の石段を登ると、そこには家康公が眠ると伝わるご神廟(しんびょう)があります。元和2年(1616年)4月に駿府城で亡くなった徳川家康公の遺骸が埋葬された場所に立つ廟です。 この神廟は家康公の遺言によって西向きに建てられています。西向きの理由には諸説あり、私がこどもの頃、 学校の先生に教わったのは、まだ徳川に反旗を翻す可能性のある西国の抵抗勢力に睨みをきかせているという 説。また、西の方角には、晩年を過ごした駿府城、家康公の両親が子授け祈願をしたという言い伝えを持つ鳳 来寺があり、さらにその先には岡崎の松平家の菩提寺大樹寺、家康公誕生の地である岡崎城があるため、自身 の一生を振り返っているという説もあるそうです。 家康公のご遺体が今もここに眠っているのか、日光東照宮に移されたのか。真相は謎のままですが、この場所 の神聖な空気に触れると、やはり家康公はここにお眠りになっているに違いないと思えます。 家康公の命日には、毎年徳川宗家(家康の子孫にあたる方)が、ここ久能山東照宮を参拝されているというの も、こちらにご遺体があるという説に信憑性を持たせる気がします。



北東の鬼門には富士山、その延長線上には日光東照宮があり、南西の裏鬼門には御前崎。久能山は日本の風水の起点になっているという説もあるくらい、パワースポットとしても知られている久能山東照宮。
運気上昇のご利益祈願はもちろんですが、世界中で戦争や紛争の絶えない時代だからこそ、平和への祈りを捧げたい場所でもあります。


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久能山東照宮
[住所]静岡県静岡市駿河区根古屋390
[営業時間]9:00〜17:00 ※受付は終了10分前まで
[定休日]なし
[TEL]054-237-2438
[URL]https://www.toshogu.or.jp/
[拝観料] ※2025年4月より料金改定予定あり
社殿 大人500円 小人200円
博物館 大人400円 小人150円
共通 大人800円 小人300円
※団体割引、障害者割引あり
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絶景が拡がる日本平夢テラスへ足を延ばす




再びロープウェイに乗って日本平山頂へ戻りました。ここで少しフリータイム。ロープウェイ駅併設のお店でお土産を購入するのもいいですが、お天気がよければぜひ歩いてすぐの日本平夢テラスへ。
新国立競技場を設計した隈研吾建築都市設計事務所が手がけた建物は、静岡県産の木材をふんだんに使った独 創的なデザイン。建物の3階にはガラス張りの展望フロアとテラスがあり、駿河湾越しの富士山、清水港、伊豆半島、南アルプス、静岡市街など、360度の大パノラマを楽しめます。
あいにくのお天気で富士山が望めないときにも、大型モニターで美しい富士山の映像を表示してくれているので、足を延ばす価値ありですよ。




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日本平夢テラス
[住所]静岡県静岡市清水区草薙600-1
[営業時間]日〜金曜日 9:00〜17:00、土曜日 9:00〜21:00
※展望回廊は終日入場可能
[定休日]毎月第2火曜日(休日の場合は翌平日)、年末(12/26〜12/31)
[TEL]054-340-1172
[URL]https://nihondaira-yume-terrace.jp/
[入場料]無料
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さぁ、次はお楽しみのランチタイム。 バスは清水駅近くのホテルクエスト清水内にある「レストランクオモ」さんへ向かいます。


静岡の恵みを堪能できる駿河湾レシピ




こちらでいただくのは、駿河湾レシピのフルコース。
駿河湾の魚介や地場野菜など、地域食材を生かしたイタリアンなのですが、このコース、全て食べてもパスタ(ペペロンチーノ)1食分よりカロリーも、糖質も、塩分も少ないというのです。

「食や健康について、考えるきっかけにしてもらえたら」

そうお話してくださったのは、青木一敏料理長。
健康食シェフ(メディシェフ)の第一人者として、静岡県内の優れた料理人である「ふじのくに食の都づくり仕事人」の最高峰「The仕事人of the year」を2015年から5年連続受賞し、マエストロの称号を与えられた静岡県を代表するシェフのおひとりです。



糖尿病患者の方がご家族や同席のみなさんと同じメニューを食べられるようにと、開発された駿河湾レシピ。地元の病院や糖尿病専門医と協力して、試行錯誤を繰り返して完成するお料理は、季節ごとでメニューが変わります。
でもね。正直に言うと、「健康にいい食事」って、味気なかったり量が少なかったり、あんまり食指が動かないイメージでしたが、前菜のひと皿が出てきただけで、そんな思い込みは吹き飛びました。


~冷前菜~ 駿河湾より 昆布〆魚と彩り野菜のサラダ 人参のヴィネグレット

真っ白なお皿に色とりどりの食材がリースのように盛りつけられたサラダは、目にも鮮やか、ボリュームも十分。添えられた人参のドレッシングをかけ回すと、さらに美しく、食欲をそそります。
清水港に揚がった鯛は昆布〆にすることでうま味が凝縮。きのこやおかひじき等、いろいろな食感を楽しめるお野菜もたっぷり食べられて、スタートから満足度が高いです。


~駿河湾のスープ~ 桜海老のビスク

続いて出されたスープは、コースを代表する桜海老のビスク。このスープが飲みたいと、駿河湾レシピを予約するお客様もいるほど人気のひと皿です。他のお料理は季節によって変わりますが、こちらは通年提供されています。大量の生桜海老をじっくりローストして、ワタリガニや野菜等と煮込んだスープは、とても濃厚でコク深く、沁み入る美味しさでした。味付けには一切塩を使わず、魚介から出る自然な塩味だけというのも驚きです。


~低糖質パン~ ロカパン

ビスクをぬぐって食べたいこちらのパンは、植物繊維たっぷりの粉で独自に開発したローカーボパン。低糖質のパンって水分がなくてモサモサした食感の印象でしたが、これは別物。もっちりしっとり。黒胡椒が効いていてとても美味しかったです。
「もし物足りなかったら」と厳選されたオリーブオイルと塩もテーブルに並んでいましたが、パンはもちろん、他のお料理も、塩味も油も十分でした。

次にいただいたのは、パスタ。通常のパスタに比べて糖質約55%オフの低糖質パスタを使っています。たっぷりのしらすが使われたトマトソースがよく絡む少し太めの麺の美味しいこと!「普通の麺より美味しい」と周囲からも驚きの声が上がっていました。ライムを搾ると爽やかに変化しさらに食が進みます。


~低糖質パスタ~ しらすのトマトソース バジルとライムの香り

メインのお料理は、お肉とお魚から選びます。
お肉や魚はもちろんなのですが、つけあわせというより、もはや主役の有機栽培のお野菜が美味しい!調理方法や味つけがシンプルだからこそ、素材の良さが際立っていました。
富士山麓で育つ静岡県産の銘柄鶏・富嶽白鶏(ふがくはっけい)や、地元清水の三保松原近くで地下海水を利用して陸上養殖されている三保サーモンなど、土地の恵みを楽しめるのも嬉しいです。


~お肉料理~ 富岳白鶏のボルペッティーニと牛ほほ肉の煮込み 温野菜添え


~お魚料理~ 塩酒粕漬け三保サーモンのロースト モロヘイヤのサラダ仕立て

そして、デザート。糖質オフにデザートは禁物だと思いきや、盛り合せのプレートが出てきたので、みなさんも驚いていました。しかも、砂糖不使用だというのですから驚きも一層です。
寒天で固めたミルキーなプリン、この日ガイドを務められていた海野さんのヤマサン農園のいちごを使用した静岡本山茶ロール、生チョコレート。甘さは砂糖では無く天然由来の甘味料で出しているそう。


~砂糖不使用ドルチェ~ シェフのおまかせデザート

デザートとコーヒーまで、たっぷり食べて大満足。どのお料理も味つけも薄いと感じることは一切ありませんでした。これで、ペペロンチーノのカロリー689kcalより低く、糖質も塩分も少ないとは!しかも、駿河湾や静岡の食材の美味しさもしっかりと堪能できました。

駿河湾レシピを提供する上で最も苦労している点を青木シェフに伺いました。

「やはり、カロリーの数字を抑えるのが難しいですね。糖質と塩分は控えることはできるんですが、それをどう美味しく食べていただけるか。美味しくするために油を使うと、すぐにカロリーがアップしてしまうんです。だから常に工夫しています。
デザートにも苦労しました。でもノウハウを積んでようやく味も見ためも納得のいくものをお出しできるようになりましたね。」



カロリー、糖質、塩分の少なさ、そしてなにより美味しさに驚きっぱなしのフルコースランチ。
塩分やカロリーを抑えるため、食材の塩味を活かしたり、酸味や昆布のうま味で味にメリハリを持たせたり。手間ひまを惜しまないシェフの匠の技にも多くの気づきをいただけた時間でした。
こうして美味しい食事を楽しめるのも健康だからこそ。健康と食について改めて意識してみようと思います。


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ホテルクエスト清水 レストランクオモ
[住所]静岡県静岡市清水区真砂町3-27 
[定休日]なし
※ランチ・ディナーともに3日前までのご予約制
※ランチは8名様より、
ディナーは日~木曜日は6名様より、金、土曜日は2名様より
[TEL]054-366-8783
[URL]https://www.hotelquest.co.jp/quomo
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美味しいランチとデザートをいただきましたが、まだ旅のメインイベントが待っています。
最後に目指すのは、この旅のガイド役、海野さんが営まれている「ヤマサン農園」。
海野さんからいちご栽培についての話を聞きながら、バスはまた20分ほどかけて国道150号線を西に向かいます。


地球に優しい石垣いちご




「ここから圃場まで、少し歩いていただきます。」
国道沿いの「ヤマサン農園カフェゆめ苺」の駐車場から、いちご栽培をしているビニールハウスまでは徒歩で数分。久能の石垣いちごは、駿河湾に面した有度山の傾斜を活かし、段々畑のように並んでいます。住宅の立ち並ぶ中、路地のような細い道を抜けた先にビニールハウスがずらりと並んでいました。



石垣いちごというのは品種ではなく栽培方法です。玉石(最近はコンクリートだそう)を一定の角度に積み重ね、隙間に苺株を植えています。石垣が積まれる傾斜角度は、先人の知恵。太陽光線を直角に受けるように考えられ、地温が上がりやすくいちごの生育に良いとされています。地形的には北側の有度山が冷たい北風を遮り、駿河湾に面した南からは太平洋の暖かい黒潮が流れる温暖な気候。さらには国内トップクラスの日照時間の恩恵で、ビニールハウスに暖房設備は必要なく、太陽光だけの天然温室。石垣いちごは、地形と気候の恩恵を受けた地球に優しい農法なのです。

でも、ビニールハウス内の温度や湿度の調節も、風を通す隙間の広さで調節しなければならず、1日に何度も 調節する日もあるため、地球に優しい分、人の手がかかっているそうです。
しかも、石垣は積みっぱなしでは無く、夏には石垣を外し、施肥してからもう1度石垣を積み直すのだそう。
こどもの頃から石垣いちごに慣れ親しんではいましたが、そんな手間ひまをかけているなんて、知りませんでした。



日本中で石垣いちご栽培を行っているのはここ久能だけ。他の地域で試みても再現することができないそう です。久能の地形と風土、太陽と石、これらが密接に関係しているのでしょうね。

久能でのいちごの栽培の歴史は古く、明治33年(1990年)まで遡ります。
バスの中で、海野さんが説明してくださいました。

「会津の松平容保公の次男で、久能山東照宮の宮司だった松平健雄という人が、東京のアメリカ大使館経由でいちごの苗を譲ってもらったんだそうです。ちなみにこの苗は、アメリカの苗だけど、品種としてはオランダ種だと思われます。明治33年に松平宮司が転任することになり、宮司の車夫をしていた川島常吉という人に苗を譲ったことが始まりだと言われています。」

その後様々な品種が導入され、昭和10年~15年頃(1935年~1940年)に石垣いちごは全盛期を迎え「久能の石垣いちご」として全国にその名が知れ渡りました。

「促成栽培のいちごは全国で久能にしかなく、教科書に掲載されるほど注目される産地だったんですよ」
と海野さん。


皇太子時代の上皇陛下も石垣いちごの圃場をご視察。(写真提供:藤枝市・斎藤明彦氏)

日本で初めていちご狩りを始めたのも、ここ久能です。昭和41年(1966年)のことでした。
平成3年(1991年)には「久能早生」と「女峰」をかけあわせたご当地品種ブランドの「章姫(あきひめ)」が誕生。
今もなお、静岡いちごを代表する品種です。この日、いちご狩りで食べさせていただいたものも章姫でした。



「今年は猛暑の影響でいちごの生育が例年に無いほど遅れています。サイズも小さいけど、味はすごく良い のができていますよ。」

スーパーなどで並び始めたものの、まだまだお値段も高くてなかなか手が出せない貴重ないちごを早速いただきましょう。



「赤く熟しているのはもちろんですが、美味しいいちごは、へたの部分で見分けられます。へたが実から離れ てピンと反り返っているのが完熟の目安。採る時は茎の部分を引っ張るのでは無く、折るようなイメージで。 いちごは先っぽの方が甘いので、へたをとって、そちら側から食べる方が甘さを最後まで味わえますよ。あと、 大きい方が甘いね。今年は実が小さいけど、できるだけ大きいのを探してみて!」

へたが反り返って、実が赤くって、大きめのいちごを見つけました!
シャクッ!!

まずは歯ごたえにビックリ。スーパーで売っているものとは歯触りが全然違います。そして、甘い!!
練乳のカップをもらってハウスに入りましたが、練乳をつけたらもったいないと思うほど、いちごが甘いので す。ほのかな酸味があることも飽きさせないので、もう1粒、もう1粒と手が止まりません。今年は数も少な い貴重ないちごなのに、遠慮無く食べてしまって申し訳ないほど。
いやぁ、美味しかった! 結局、一度も練乳を使いませんでした。


甦った100年前のいちご



果実が細長いのが福羽の特徴なのですが、この実はちょっと丸みを帯びていました。

私が最後に久能でいちご狩りをしたのは、30年以上も前のこと。
あの頃のいちごは、もっと酸っぱくて、「練乳が足りない!」と思った記憶があります。
そんな記憶を甦らせてくれたのが、ヤマサン農園で実験的に育てている「福羽」。日本第1号の交配品種です。 新宿植物御苑(現在の新宿御苑)で開発され、明治32年(1899年)に発表されたこの品種は、最初は皇室献上用だったため、 御苑いちごや御料いちごと呼ばれていました。
その後、1919 年(大正8年)に一般でも栽培が可能となり、大きな実と美味しい味が日本どころか世界にも知られ、70 年 ほど栽培されていたそうです。

現在では、日本のいちごは約300種もの品種があり、世界全体の品種の半分以上が日本のものだという説もあ るそうです。日本各地で品種改良が重ねられ、個性的な新品種も続々と誕生しています。
全国の生産地で“ご当地ブランド”となるいちごも次々に生まれる中、品種では無く、自然の恵みや風土を活 かした唯一無二の栽培方法である石垣いちご。
しかし「10年前に比べると、生産人口は20%も減っている」と海野さんのお話にもありました。
石垣の積み替えや土壌の手入れなどの重労働、高齢化や後継者不足は大きな課題です。



一消費者の私にできることは限られていますが、いちごを買って、美味しく食べることで少しでも生産者さん の背中を押せるのであれば、今まで以上に、久能生まれのいちごを食べよう!と思いました。
いちごのシーズンが終わっても、カフェでは凍らせたいちごをまるごと削ったかき氷やパフェが食べられます からね。


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ヤマサン農園・カフェゆめ苺
[住所]静岡県静岡市駿河区西平松462-1 
[営業時間]11:30〜17:00
※いちご狩りは1月~5月上旬
[定休日]月曜日
[TEL]090-2777-5318
[URL]https://yamasanchi.com/
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静岡生まれの静岡育ちでありながら、まだまだ知らないことがいっぱい。
新たな発見や気づきにあふれた旅でした。
地域の歴史や文化、風土や気候、そして作り手の想いに触れた上で味わった静岡の味は、美味しさやありがたさ が一層増したように思います。
機会がありましたら、みなさんも発見や気づきにあふれる静岡県のガストロノミーツーリズムをぜひご体験ください。

この体験についてのお問合せはこちら

さわやかツアー(全国旅行サービスステーション株式会社)
[TEL]054-248-8888
[営業時間] 9:30~17:00
[定休日]  土曜・日曜・祝日
[URL] https://www.sawayaka-tour.com/



ライター:ごはんつぶLabo アオキリカ
写真:小塚 司
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