静岡県唯一の有人離島「初島」は、本州から一番近く、首都圏からも一番近い離島です。
静岡の熱海港からは、30分でリゾート感あふれる初島に着きます。
初島は、約7,000年前の太古から人々が住んでいたとされ、島内には縄文時代早期後(7,000年前)からの遺跡が全域にわたって点在しているそうです。
今回の旅をアテンドしてくださった、熱海市役所観光経済課の山田久貴さんは、ロケ支援事業「ADさん、いらっしゃい!」で、これまでサポートしたテレビ番組などは1,000本以上。初島における知識量は「初島辞典」と呼ばれるほどで、山田さんの「初島の魅力を伝えたい」という情熱が伝わってきます。
熱海市役所観光経済課の山田久貴さん
熱海港から初島へ
熱海乗船場に付くと、お土産売場には一際目立つ「初島レモンまみれコーナー」。初島と熱海の特産品が売られています。乗船チケットは窓口でも購入できますが、日本語以外にも対応している券売機が2023年4月に導入されたようで、今回は券売機でチケットを購入しました。アジアンガーデン、島の湯、VOTAN、宝探しの乗船券とのセット券も購入することができます。
熱海乗船場:お土産売場
日本語、英語、中国語(繁体字・簡体字)に対応しているチケット販売機
現金・クレジットカード、利用可能
全長約43m、定員605名のイルドバカンスプレミア号
いよいよ熱海港発のクルーズ船イルドバカンスプレミア号に乗船。風もなく波も穏やかな絶好の観光日和で、船が走り出すと待っていたかのように、たくさんのカモメが集まってきます。デッキで山田さんから「これをあげてみて」と、餌を渡されました。それをカモメに向かって差し出した瞬間、一斉に突っつき合いながら、餌を奪い合う様子に驚きました。
カモメたちはその後も船をずっと追いかけてきて、人懐こいカモメたちの様子が可愛い。
右写真)かもめに餌をあげる様子
船は3階建て仕様の大きなクルーズ船で、本土と初島を結ぶ連絡船としても活用されています。船内は木目調の落ち着いたデザインで、ボックスシートやカウンター形式の席が配置されており、さらに下の階には靴を脱いでリラックスできるスペースもありました。この快適な空間で、船旅の始まりから満足感を味わうことができます。
「ようこそ初島へ」大きな看板がお出迎え
景色や海を眺めている間に、初島に上陸。
初島の文化や島民の暮らしに興味もあり、区長の宮下泉さんからのお話を聞きます。宮下さんは区長でもあり、初島漁業協同組合 代表理事組合長、初島区事業協同組合 理事長も兼任していて、さらに「磯料理みやした」の料理店も営む、スーパー区長です。
初島区区長の宮下さん
半農半漁の暮らしを守る41戸のストーリー
初島の世帯数は、江戸時代の頃には41世帯で定着し、その世帯数が今でも最大値として守られています。この世帯数を超えない理由には、島の限られた資源を有効に活用し、住民全体に行き渡らせるためという背景があります。農産物や水産物の供給量を維持し、島民の生活を支えるために世帯数が制限されてきました。
また、初島には真水がなく、これまでは井戸水を汲み上げて脱塩したり、雨水を活用したりして水を確保してきました。さらに、渇水期には給水船が訪れることで島の生活用水が補われていました。このような状況下で、限られた資源を守り、持続可能な暮らしを維持するための世帯数といえます。
1964年頃からリゾート会社が進出し、島の開発も進み島の暮らしは便利になってきています。
1966年に、熱海からの海底ケーブルが完成し、電気や電話開通。1979年に熱海と初島をつなぐ海底送水管ができ、生活用水の供給が開始。2本目の海底送水管は2025年1月に完成予定。
初島原則
初島三原則を語ってくれる宮下さん
初島には昔から三原則がある、と語ってくれる宮下さん。
・「人気(ジンキ)」和を重んじ、相手を思いやりなさい
・「境界」土地の境界で争いをしてはいけません
・「火災」火事が起きたら島民全員で消火にあたりなさい
島には交番も消防署もなく、島民が力を合わせて防災に取り組んでいて、島民みんなが家族なのです。病人や怪我人が出たら助け合うことが当たり前とされている。そんな温かい気持ちを持った人たちが、初島で暮らしています。現在は32世帯、2歳の子どもから101歳までが住んでいるという。(2024年12月)
また、実際に災害が起きた時の話をお聞きしました。2018年7月の台風12号では、防波堤が壊れる大きな被害を受け、自然の脅威の前には人の力が及ばないことを痛感したという。「医療面では現在、診療所が1つあり、緊急時にはドクターヘリや緊急用の船が対応している。時代とともに、島の生活は徐々に便利になってきています。」と語ってくれました。
華やかなリゾート地というイメージからは想像もつかなかった、島の人々の暮らしぶりを垣間見ることができ、「ここは本当に『島』なんだ」と実感しました。
散策〜PICA初島へ
リゾートを満喫できる場所PICA初島まで、山田さんを先頭に散策途中、青とピンクのイカトイレと黄色いレモンポストを発見。ヤシの木や熱帯の植物、花、極楽鳥花(ストレリチア)アロエ群などを見ながら5分ほど歩くと、「PICA初島」の売店が見えてきます。その隣には、海を眺めながら楽しめる「海泉浴 島の湯」と「海のプール」があります。訪れたのが12月だったため閑散としていましたが、夏には多くの人が集まる賑やかな場所に違いない、と感じました。
左)きいろいポスト(残念ながら投函はできません)
右上)青とピンクのイカトイレ 右下)写真スポットにぴったりの黄色いベンチ
売店では、初島限定のレモンビールやサイダー、レモンソフトクリームなど、ここでしか味わえない商品が販売されています。レモンソフトクリームは、濃厚なミルクの風味に爽やかなレモンの味わいが加わった一品で、特に女性に人気があるそうです。
PICA初島売店、レモンソフトクリーム、レモンビール、サイダー
「アジアンガーデンR-Asia」へ
ここからは、入園料が必要となり、山田さんから園内を説明してくれるPICA初島の支配人 藤原透さんへバトンタッチ。入園料は、大人950円、小人550円(2024年12月)
WEBで検索すると、「初島レモンまみれ」というフレーズがひときわ目立っていました。島へ来たらあちこちにレモンをテーマにしたスポットがあり、この仕掛けはだれが・・・?と聞いたところ、共同プロジェクトとして、熱海高校と富士急マリンリゾート、PICA初島、が一緒に取り組んでいるのだそうです。第1弾として2023年に高校生たちがアジアンガーデンR-Asia内にレモンの木を植樹したのを期に、レモンスポットを増やして行ったそうです。
レモンは、温暖で日照時間が長く、雨が少なく風が穏やかな地域での栽培に適しています。初島は、レモンを栽培する好条件に当てはまっています。すでに「初島レモン」として有名になりつつあり、「アジアンガーデンR-Asia」内のレストラン「テラスレストランENAK(エナ)」では、レモンスパイスカレーやスフレパンケーキなど、レモンを使ったメニューがたくさんありました。
店内はアジアンテイスト満載で、「ここは本当に日本なの?」と思わず錯覚してしまうほど。また、食事を楽しむだけでなく、BBQも満喫できます。新鮮な魚介類や野菜が用意されているため、手ぶらで訪れても手軽に楽しめるのが魅力です。
野外ではBBQ、室内ではハワイアンな内装で食事を楽しめる
様々な撮影スポットがある
案内をしてくださった藤原さん:レモンパラダイスの前で(美術家/フランキー・スィーヒさんのアート)
非日常と触れ、ハンモックに揺れながら、ゆったりできる自然空間。リゾート地だけど気負わずに自然を身近に感じる世界がここにありました。
ハンモックでのんびり。空を見上げればヤシと青い空が広がる。
そして宿泊できる施設として、5タイプのヴィラが18棟建っています。グランピングを楽しみたい人々にとって非常に快適な施設です。
開放的な空間で楽しむグランピング。夜には星空がばっちり見えます。
「また少し歩きます」と藤原さんの後を追い、「初島アドベンチャーSARUTOBI」がある、アスレチック広場へ。本格的にハーネスをつけ体験できるスポットで、初級から上級まで、いくつかのコースがあります。まず、全体を見て「できそう」と思うコースを選んでいただきたいそうです。子どもたちが安心して楽しめるアスレチックもあり、「トレジャーアイランドに眠る幻の宝を探せ!」と称する、宝探しアドベンチャーなど、家族で楽しめる体験エリアもたくさんあります。
初島の自然を巧みに活用したアジアンガーデンは、島の環境に溶け込むような設計が施されており、自然との調和が感じられるリゾート施設です。島の魅力を存分に感じながら、自然の中でリラックスできるスポットになっていました。
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PICA初島
[住所]〒413-0004 静岡県熱海市初島1113
[TEL]0557-67-2151
[URL]
https://www.pica-resort.jp/hatsushima/index.html
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ここで、藤原さんにお礼を言い、「登れる灯台」へ向かいます。
日本には、登ることができる灯台が16ヶ所あり、初島の灯台もその一つです。相模湾を渡航する船舶や操業漁船の「道しるべ」として1959年に設置・点灯しました。灯台に登ると360度パノラマが目の前に広がり、三浦半島や富士山、伊豆大島まで見渡すことができ、初島灯台資料展示館が併設されていて、灯台の歴史の年表や機材を見ることができます。
真っ白の灯台が青い空に映える。灯台を登ると360度初島からのビッグパノラマを望めます。
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燈光会初島支所
[住所]〒413-0004 静岡県熱海市初島444
[TEL]0557-67-3100
[営業時間]10:00~16:00(入場は15:40迄)
[料金]中学生以上300円
[URL]
https://www.tokokai.org/tourlight/tourlight06/
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島の恵みを堪能「初島の食堂」
灯台から島の中央を通り、食堂街へ向かい、山田さんおすすめの「磯料理・御食事処 坂下」さんを訪れました。「初島の特産品を味わいたい」とリクエストしていたところ、少し時期は早いながらも「大根のビール漬け」を特別に用意していただきました。
初島の特産といえば天草、ところてん、明日葉(あしたば)、大根のビール漬け他、岩のりやえび、さざえ、鯵などの海産物。
さっそくメニューを見ながら注文するも、メニューのどれもが美味しそうで、海鮮丼、地魚丼、かき揚げ丼、イカと地魚丼の4種類と、アシタバの天ぷら、ところてん、大根のビール漬けを頼みました。丼には青のりの味噌汁と魚の煮付けの小鉢がついていて、ボリュームがあります。
朝採ったばかりの新鮮な魚を使った丼
アシタバの天ぷらを揚げる坂下さん
観光客は初島の味を堪能。地元の人には憩いの場となっています。「明日葉=アシタバ」は緑黄色野菜の中でも各種ビタミン・ミネラル・食物繊維を豊富に含んだ優れた健康野菜で、初島は昔からアシタバと大根が栽培される地域として有名です。
坂下さんオリジナルところてん
「ところてんは、初島で採れる天草を煮て作るけれども、それぞれの家庭や食堂でところてんの味が違うよ」「毎年5月の最後の週にはところてん祭りがあり、『ごまだれ味』が人気だよ。」と教えてくれる坂下さん。
「大根のビール漬けは、大根をビールで漬けると美味しくなるんだ。」「それに早くできるし」と大根のビール漬けを食べてみました。病みつきになるおいしさです。初島に行ったら、ぜひ食べてほしい一品です。
坂下さんは気さくな雰囲気ながら、初島漁業協同組合と初島区事業協同組合の理事を務める、島の重要なリーダー的存在です。手際よく調理してくれた丼やお料理は、味はもちろん丁寧な作業とおもてなしが伝わってきます。
余談ですが、「ところてん」と「寒天」の違いが気になり調べてみました。天草を煮出して作るのが「ところてん」で、その「ところてん」を冷凍・乾燥させたものが「寒天」だそうです。寒天が寒冷地で作られる理由も、この製法の過程に由来していると知り、納得しました。
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磯料理・御食事処 坂下
[住所]〒413-0004 静岡県熱海市初島175
[TEL]0557-67-2182
[営業時間]11:00~(予約可)
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坂下さんで食事を終えた後、初島漁港スーパーマーケットとシマテラスに寄り、一から煮出す天草に初挑戦しようと思って、天草とところてんを購入しました。
左上)初島の天草・ところてん 右上)お土産品や休憩所があるシマテラス
左下)日用品や食材等が揃う初島漁港スーパーマーケット 右下)底まで見える透き通った海面
初島港の堤防には釣りを楽しむ人たちが集まり、1年を通してさまざまな体験ができる島だと感じました。夏にはシュノーケリングやダイビングなどのマリンスポーツをはじめ、自然を満喫できるアクティビティが充実しており、遊びの選択肢が豊富な魅力的な場所です。
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シマテラス初島
[住所] 〒413-0004 静岡県熱海市初島209
[TEL]0557-67-1401
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船の歴史と初島リゾートの魅力づくり
クルーズ船の歴史や様々なイベントを紹介してくれる柄沢さん
最後に、島へ渡るために必要不可欠な「船」の歴史について、株式会社富士急マリンリゾート 総務部長柄沢将(からさわまさし)さんにお話を伺いました。
富士急グループが初島で観光事業を開始して、2024年7月に60周年を迎えました。富士急マリンリゾートでは、1968年、シーパレス号「熱海、初島、伊東」(定員200名)の定期旅客運行をスタートし、1964年にはパイオニア号(定員385人)を就航。1973年、島を訪れる観光客も増え、イルドバカンス号(定員530人)と船も大型化してきます。
イルドバカンスプレミア号の前で、柄沢さんから船のお話を聞く
熱海港の船客待合所には、「初島の昔と今」「船の歴史」を振り返ることができる
「初島観光60年の歩み」として、パネルが展示してあります。(2024年12月)
「富士急マリンリゾートでは、初島を楽しんでいただくための様々なイベントやキャンペーンを実施しており、若い人たちをターゲットにした「初島レモンまみれ」プロジェクトやインバウンドへの取り組み、など地元の観光名所と協働し企画を展開しています。」と、柄沢さんは語ります。
初島でしか食べられない丼を楽しめる「丼合戦」(写真は2024年の丼合戦のチラシ)
2023年度には、初島区事業協同組合と協働で企画・開催するグルメイベント「初島丼合戦」が、静岡県の「ふじのくに食の都づくり貢献賞」を受賞。県内外の観光客へ「食の都しずおか」の魅力を伝え続けています。
※受賞についての詳細はこちらから
[URL]
https://fujinokuni.shokunomiyako-shizuoka.pref.shizuoka.jp/culture/list-award
「丼合戦」は、初島の人気コンテンツでもあり、2025年は2/8(土)〜3/9(日)まで開催されます。
島の漁師が営む食堂を中心とした16店舗が、それぞれの個性を活かし初島でしか食べることができない丼を提供します。どの丼も工夫されていて、これぞまさに「ガストロノミーツーリズム」だと感じました。
※2025年丼合戦の情報はこちらから
[URL]
https://www.hatsushima.jp/donburi/
坂下さんのお店も、宮下区長のお店も参戦しています。「ENAK(エナ)」の「海の幸3種ちょこっと丼」は、いろいろなものを少しずつ食べることができ、女性には嬉しいメニューで、丼合戦が楽しみです。
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株式会社 富士急マリンリゾート
[住所]〒413-0023 静岡県熱海市和田浜南町6-11
[TEL]0557-81-0541
[URL]
https://www.hatsushima.jp
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静岡にいながら、これまでなかなか訪れる機会のなかった初島。華やかなリゾート地という印象で、「会員制リゾートホテル エクシブ初島クラブ」や「アジアンリゾート」、そして「大型クルーズ船で渡る島」といったイメージばかりが先行していました。今回、朝8時から夕方16時までの日帰りで訪れましたが、アジアンテイストの景観やさまざまな体験、島の人々との触れ合い、そして地元の食文化を満喫することで、初島の魅力を存分に感じることができました。「近くて遠い島」だと思っていた初島が、今では「近くて身近な島」に変わりました。
【取材協力】初島区事業協同組合/初島漁業協同組合/島テラス初島/株式会社 富士急マリンリゾート/PICA初島/磯料理・御食事処 坂下/熱海市役所 観光経済課「ADさん、いらっしゃい!」