ららら紀行

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日本の調味料の「さしすせそ」が揃う町。横須賀藩の城下町で造り続ける、木桶仕込み醤油。
#発酵  #醤油  #遠州  
静岡県掛川市横須賀地区は、日本の調味料の「さしすせそ(砂糖・塩・酢・醤油・味噌)」が揃う全国でも珍しい町と言われています。徳川家康が大須賀康高に命じて築城した横須賀城の城下町だったところで、今もかつての町人町を思わせる古い町並みが残ります。昔ながらの雰囲気を残す造り酒屋や提灯屋などがあり、その中のひとつに木桶を使った伝統的な仕込み方で醤油をつくる「栄醤油醸造」があります。

自家醸造醤油の工場見学が可能。伝統的な醤油づくりとは。



「栄醤油醸造」8代目・深谷允さん。醤油搾り体験と工場見学のプランでは、深谷さんから醤油づくりにまつわる興味深い話を伺えます。

「栄醤油醸造」の深谷允さんの祖先は刀鍛冶だったそうで、江戸時代の1795年(寛政7年)、刀鍛冶の傍らで醤油を造り始めたのが始まりです。やがてそれが本業になり、230年弱経った今でも、昔から伝わる木桶仕込みで醤油造りを行っています。こちらでは、木桶仕込みの醤油の搾り体験と、工場見学ができるようになっています。

国産の丸大豆、小麦、塩。そしてこれに麹菌と水を加えて造る醤油。材料は至ってシンプルですが、仕込みの仕方、造り方で味が全く異なります。これらの原料に麹菌等の微生物の力を借りて、醤油が出来上がります。

小麦を大きな炒り機に入れて炒ると、香ばしい香りが立ちこめます。炒った小麦を砕き、続いて大豆をひと晩、水につけます。水は地下100mから組み上げる井戸水を使用。醤油には軟水が良いと言われていますが、こちらの井戸水は超がつくほどの軟水だそうです。
大豆、小麦、たね麹を合わせ、麹室(こうじむろ)に移し、3日間ほどかけて麹をつくっていきます。

大事なのは麹の温度を30度程度に保つこと。大豆を蒸したばかりのときは熱く、小麦と混ぜ合わせる段階で30度ほどに下げていきますが、菌はやがて熱を持ち、温度が上がっていきます。麹室の扉を開けて風を入れるなどして冷まし、そしてまた熱を持ち始めたら再び冷ますということを繰り返します。この作業時間はだいたい45時間ほど。手作業なので、とてもたいへんな工程なのです。

2mほどもある巨大な木桶の中に、塩水を2回、麹を4回入れて「もろみ」の仕込みが完了。ここまで2週間ほどかかります。そしてここからが長丁場。醤油ができるまで、濃口醤油の場合は1年〜1年半、淡口醤油の場合は10カ月ほどかかります。


昔から使われている大豆を蒸す圧力釜。

その後、雑味が出ないように少しずつ時間かけて圧搾しながらもろみを布でこして搾り、生揚(きあげ)醤油が出来上がります。ちなみにこの醤油の搾りカスは近隣牧場の牛やヤギの餌になったり、お茶農家等の畑の肥料などに活用されているとのこと。

搾った醤油は、この段階では大豆の油分が含まれているので、しばらく置き、分離させます。油分を取り除いた澄んだ部分のみを取り出し、殺菌と香ばしい香り付けのために火入れを行います。


醤油搾り体験。火入れしていない生の醤油を味わえる貴重な機会。






醤油搾り体験では、もろみをコーヒーフィルターでこし、瓶詰めした生揚醤油と、残った搾りカスを持ち帰ることができます。この搾りカスは、醤油が残っていてとろっとしたもの。きゅうりにつけたり、ご飯にかけていただいてもおいしいですよ。
普段は火入れをして発酵を止めて製品として安定した状態のものを流通させていますが、生揚醤油はまだ微生物が生きた状態のもの。独特の香りと、まさに出来立ての味を楽しむことができる貴重な機会です。

ちなみに、火入れされた醤油と生揚醤油、どちらがおいしいかというと、それは焼き魚と生魚がどちらでもおいしいように、好みと使うシーンにより異なるとのこと。
醤油には、「濃口醤油」と「淡口醤油」のほか、生揚醤油を再び木桶に戻し再発酵させる「再仕込み醤油」、主に大豆から作られる「たまり醤油」、主に小麦から作られる「白醤油」の5種類があります。


マグロの赤身のお刺身には濃口醤油、トロのように脂身が多い魚にはたまり醤油、白身魚には淡口醤油など、それぞれ合う醤油が変わってきます。ワインと食材を合わせるように、醤油にもペアリングがあるのです。


蔵元独自の味と香りを形成する木桶仕込み醤油。シェアはなんと1%以下。





「栄醤油醸造」の木桶は100年以上も使われ、蔵もとても古いので、長い年月をかけてさまざまな微生物が棲みつき、醤油の発酵と熟成を助けてくれています。蔵元によって、蔵グセと呼ばれる棲みつく微生物が異なるのです。ワインやウイスキーが樽の中で熟成しながら年月とともに味わい深く変化していくのと同様に、醤油も木桶の中で熟成させていくと、蔵元独自の味が形成されていきます。
工場内の木桶の中を見てみると、麹がぷくぷくと活動している様子がわかり、ふわっと醤油の良い香りが漂います。

実は木桶仕込みでつくられる醤油の流通量は、国内では1%以下。ほとんどは、生産しやすいFRP製やステンレス製などの大きなタンクを使って仕込むのが主流となっています。
今、木桶仕込みの醤油醸造所にとって問題なのは、木桶をつくる職人が途絶えつつあるという点です。「栄醤油醸造」の木桶も100年以上経過し、補修しつつ使用していますが、あと100年持つかと言われると、それは難しい問題です。
2010年頃、高さ2mもの木桶を製造できる桶屋は全国に1軒のみになってしまいました。しかし、今、木桶仕込みの醤油が見直され、木桶仕込みの蔵元が増えつつあります。興味を持った関係者が集まり、小豆島で新桶づくりがスタート。それが深谷さんも参加する「木桶職人復活プロジェクト」です。みんなで技術を共有し、新たな職人を育て、後世へ木桶仕込みの醤油の味を伝えていこうという取組です。

「栄醤油醸造」でも、新しい木桶を入れ、今後は工場を拡張し、数を増やしていく予定とのこと。今後の新しい木桶醤油の展開も楽しみです。



栄醤油醸造
[住所]静岡県掛川市横須賀38
[TEL]0537-48-2114
[URL]http://www12.plala.or.jp/sakae-s/
※工場見学・醤油絞り体験は人数・状況により受け入れができない場合あり。事前にご確認を。



地元産の魚介・野菜、静岡県産ブランド牛を使った季節の「美味馳走」。









静岡県袋井市にある、山に囲まれ、静寂に包まれた「葛城 北の丸」。古民家を移築し、再構築した建物で、遠州瓦の甍屋根や花梨の木レンガを敷いた回廊、壁面を飾る工芸やアートなど、新旧のデザインエッセンスが効いたリゾート施設です。よく手入れされた美しい庭園も見応えがあります。

こちらの食事処では、駿河湾や浜名湖などの新鮮な魚貝類や静岡県産ブランド牛、地元・掛川市の「しあわせ野菜畑」の有機野菜などを使った季節の会席料理をいただくことができます。旬の味を、一番おいしい状態でいただけるよう、匠の技が息づきます。
こちらで刺身のお造りをいただく際に使用している醤油は「栄醤油醸造」のもの。食材の味を引き立てる、良い仕事をしてくれます。ほんの少し醤油を付けていただくと、まろやかな香りと味が魚の旨みを引き立ててくれます。



葛城 北の丸
[住所]静岡県袋井市宇刈2505-2
[TEL]0538-48-6111
[URL]https://www.yamaharesort.co.jp/katsuragi-kitanomaru/



【今回ご紹介したスポットのモデルプラン例】


※車を利用

13:30
JR掛川駅出発。

14:00
栄醤油醸造にて、醤油しぼり体験と醤油蔵見学。

17:00
葛城 北の丸にて夕食と館内散策。

19:30
JR掛川駅到着。

※午前中に、近隣にある掛川城や土井酒造の酒蔵見学、精進料理体験ができる可睡斎を組み合わせるプランもおすすめです。
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