ららら紀行

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静岡の漆文化を通じて、徳川時代への想いを馳せる旅。
#中部  #伝統工芸  #漆  #駿河  


江戸時代、徳川家康公や家光公の命を受け、駿府城の築城や静岡浅間神社の修繕のために、全国から駿府(静岡)に木工や左官、金具等の高い技術の職人が呼び寄せられました。特に江戸後期の浅間神社第二期造営工事は60年程に及び、腕利きの職人たちは、温暖で豊かな駿府の気候風土が気に入り、そのまま定住。そしてその技術を普及させていったのが静岡の伝統工芸が盛んになった一因といわれています。
その技術のひとつに「駿河漆器」があります。明治期にかけ輸出漆器の一大産地として「駿河漆器」は全国的に知名度を上げていきました。

今回は、明治期前後に輸出漆器産地として名を馳せた「駿河漆器」のものづくり技術の体験をしたあと、「静岡浅間神社」で漆文化を学び、徳川家ゆかりの場所で食事をいただく旅をご案内します。

静岡の伝統工芸を体験できる「駿府の工房 匠宿」で、漆の箸づくり。




宇津ノ谷峠と安倍川を結ぶ東海道五十三次の宿場町・丸子。ノスタルジー漂う里山の風景が広がるこの地にあるのが、駿河竹千筋細工・陶芸・木工・漆・藍染、お茶染めなど、さまざまな工芸体験ができる体験施設「駿府の工房 匠宿」です。
こちらは職人の工房も兼ねており、作業の様子を間近で見ることができるほか、後継者の育成にも力を入れている場所です。



漆器づくりは、器や箸、スプーンなどをつくる木工職人、漆を塗る塗師(ぬし)、絵付けをする蒔絵師など、それぞれの工程を分業して行います。「駿府の工房 匠宿」では、そのいずれかの工程の一部を簡易的に体験することができます。
たとえば、木から箸やスプーンをつくってみたり、漆が塗られた台座に金箔を貼ってブローチなどに仕上げたり、同じく漆塗りの台座に金粉や銀粉を蒔いて蒔絵の技法を用いたタンブラーをつくったり。
今回は、その中のひとつ「漆 粉貝箸づくり」に挑戦してみました。



駿河漆器、駿河蒔絵などの静岡の伝統工芸が盛んになったのは、江戸時代後期。しかし、静岡市内の特別史跡登呂遺跡から弥生時代の漆塗りの琴が発見されたり、お椀などの漆器を生産していた職人集団の記録があるなど、この地域で古くから漆塗りと関わってきたことがわかっています。
1873年(明治6年)の日本が初出展したウィーン万博に、寄木細工の駿河漆器も出品され、高く評価されました。明治時代の終わりから大正時代には、日本から輸出されていた漆器の8割を「駿河漆器」が占めるほど。国産漆器を代表するほどのブランドだったのです。

漆を何層にも重ねることで、水にも強くなる漆器。
たとえば、今回、伝統工芸の技を体験する写真の箸ですが、木工職人が箸をつくった後、木肌調整(ヤスリがけ)→木固め(生漆)→研磨(ヤスリがけ)→下塗り(呂色漆)→研磨(ヤスリがけ)→呂色漆塗り後、貝蒔き→貝払い→貝固め(呂色漆)→中塗り(黄色漆)→上塗り(各色)→研磨(砥石研ぎ)→艶仕上げ(コンパウンド)といった、多くの工程が施されています。
体験では、最後の砥石での研磨と、艶仕上げのみを体験できるようになっています。この部分だけでも、40分ほどの時間がかかるので、なかなかたいへん。でもそれだけに美しい艶と、不規則に現れる貝の模様が見事で、とても艶やか。この箸を使っていただく食事は、またワンランク上のものになるでしょう。


駿府の工房 匠宿
[住所]静岡県静岡市駿河区丸子3240-1
[TEL]054-256-1521
[URL]https://takumishuku.jp


塗り替えしたばかり! 贅を尽くした総漆塗極彩色の社殿を持つ「静岡浅間神社」を見学。



地元の人から「おせんげんさん」と呼ばれて親しまれている「静岡浅間神社」。社殿群26棟が国の重要文化財に指定されており、一つひとつ見てみると、見事な彫刻が施されており、とても見応えがあります。一般的に神社は、白木の質素な造りのところが多いのですが、こちらは江戸時代初期に徳川家の手厚い庇護を受けて、美しい総漆塗極彩色に改修され、「東海の日光」とも称されています。


静岡浅間神社を案内してくださった、権禰宜の宇佐美洋二さん

漆は40〜50年に一度は塗り替えが必要。楼門ひとつ塗るにも3年かかったという。
漆塗りの器はその貴重さと手間ゆえにとても高価なものです。総漆塗極彩色というのは、彫刻の上に漆を塗り、そこに金箔を押してから彩色していくとても手もお金もかかる手法で、そんな高価な漆塗りを社殿に使用するわけですから、相当な贅沢であることがわかります。

現在、「静岡浅間神社」では、20年かけて漆の塗り替えを行っている最中。漆は紫外線に弱いので、美しい艶を保てるのは場所によっては数か月ほどとのこと。美しい漆塗りに、美しい彩色を施した状態が見られる期間はわずかなのです。ぜひ早めに訪れておきたいですね。


駿河国総社 静岡浅間神社
[住所]静岡県静岡市葵区宮ケ崎町102-1
[TEL]054-245-1820
[URL]http://www.shizuokasengen.net


静岡の漆について知る。将来的には漆のコーヒーが誕生するかもしれない?!



オクシズと呼ばれる静岡市の中山間地の奥静岡エリアでは、ウルシの木を育てるプロジェクトを実施中。
漆がどのように採れるかご存知でしょうか。漆は、ウルシの木を掻(か)き、そこから出る樹脂を含む樹液からつくられます。1本の木から牛乳瓶1本ほどしか採取することができない、貴重なものです。

2015年に文化庁から「国宝や重要文化財の修復には国産漆を原則として使用するように」との通達が出されました。先にも触れたように、「静岡浅間神社」では、2016年から20年かけて漆の塗り替えを行なっています。
社殿群26棟が国の重要文化財に指定されているため、使用する漆の量は途方もない量です。たとえば楼門だけでも820kg必要。現在の生産地だけではまかないきれないため、現在、「静岡浅間神社」がある静岡市の有志たちが集まり、「オクシズ漆の里プロジェクト」を立ち上げ、漆の生産に乗り出しているそうです。

静岡でのウルシの植栽はまだ始まったばかりですが、将来的には漆の生産はもちろん、食材として活用されることも期待できそうです。
ウルシの果実はローストしてコーヒーにしたり、花からはハチミツの採取も可能。韓国では、皮や枝を薬膳料理に使用しており、血行促進や肝機能回復効果が期待できるそう。もしかしたら「静岡産漆のハチミツ入り、漆のコーヒー」が静岡から誕生するかもしれません。それを漆塗りの器でいただけたらいいですね。


静岡の漆について教えてくれたオクシズ漆の里協議会事務局の山田三樹さん。

漆を使った染色も可能。
漆に関する様々な分野の専門家を講師として「静岡浅間神社」で「オクシズ漆の学校」を開催しているとのこと。静岡の漆の魅力を学べる基礎講座で、旅のプランに組み入れてみるのもおすすめです。


オクシズ漆の里協議会 事務局
[住所]静岡市葵区宮ヶ崎町102-1(静岡浅間神社内)
[URL]https://okushizuurushinosato.com


最後の将軍・徳川慶喜公が大政奉還後に移り住んだ屋敷跡「浮月楼」で夕食を。



徳川つながりで夕食におすすめしたいのが、1891年(明治24年)創業の老舗料亭「浮月楼」です。こちらは、染物師の町であった紺屋町の代官屋敷、渋沢栄一氏の商法会所、そして徳川慶喜公屋敷という時代を経て、明治時代に「浮月楼」として開業しています。

日本の近代数寄屋建築を代表する名建築家・吉田五十八(いそや)が手がけており、残念ながら火事や戦争で当時の建物は残されていませんが、料亭に使用している明輝館(めいきかん)と呼ばれる建物は、その設計方針を生かして再建された建物です。
本館には、油絵や写真、自転車、狩猟など多くの趣味を持っていた慶喜公の、将軍とは別の顔を見られる展示コーナーが用意されています。




焼津の小川港で水揚げされた新鮮な魚介、静岡県のブランド牛「しずおか和牛」や同じくブランド鶏「富嶽白鶏」をはじめ、豊かな農林水産物を誇る静岡県の新鮮な食材を使った、心尽くしの懐石料理をいただくことができます。
「浮月楼」で大切にしているのは、日本には24の季節があるという二十四節気という考え方。自然豊かな静岡県の美食を、この二十四節気を感じながら味わってもらえたらという想いが込められています。


お庭は、慶喜公が作庭家・小川治兵衛(おがわじへえ)を呼び寄せ、つくらせたもの。池泉回遊式庭園になっており、四季折々の美しいお庭を眺めながら食事ができる場所になっています。夕暮れ時、お庭を眺めながらゆっくり食事を楽しんでみてはいかがでしょう。


浮月楼
[住所]静岡県静岡市葵区紺屋町11-1
[TEL]054-252-0131
[URL]https://fugetsuro.co.jp



【今回ご紹介したスポットのモデルプラン例】
※車を利用

12:30
JR静岡駅出発。

13:00
駿府の工房 匠宿で、漆を使った箸づくり体験。

15:30
静岡浅間神社の見学と、静岡の漆についての基礎講座を受講。

18:00
浮月楼にて夕食と、庭園見学。

20:30
JR静岡駅到着。
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